第十八話 噛ませ犬でも主役を食らうこともある
今日は久しぶりに冒険者ギルドに来ている。ここ数日バタバタしていたし、気持ちも落ち着かなかったので、足が遠のいていたのだ。
でも、ポイント稼ぎをあまりおろそかにしていられないし、薬草の備蓄も足りないものが出てきたので、クエスト受注に来たというわけ。
「モニカ、久しぶりね」
受付で担当してくれたのは、いつも優しいお姉さん職員だ。
「マリアさん! ほんと久しぶりですね」
マリアさんの窓口は人気なので、列が混んでいることが多く、受付をしてもらったのは久しぶりだった。優しさの中に色気もあるという魅力的な人だから、冒険者たちの人気が高いというのも頷ける。
「そうだ、マリアさんは薬草に詳しい? それか、詳しい人、知ってます?」
私は声をひそめて言う。聞かれていけない内容というわけではない。マリアさんと堂々と話していると、周りの冒険者から顰蹙を買うのだ。こうやって顔を寄せて話すのも微妙だが、目立つよりマシだ。
「やだモニカ。薬草師のモニカより詳しいわけないでしょ。そうねー。モニカは初級エリアにいる薬草師の人たちとか、魔女婆様から教えてもらってるって、前言ってたわよね」
私の心配をよそに、マリアはテンション高く返事をしてくれる。
「マリアさん、声大きいです。私がほかの冒険者に怒られちゃいますよ」
「だってモニカみたいな可愛い女の子と話せる機会なんて滅多にないのよ。ゴツくてむさ苦しい人ばかり相手にしてるんですもの。気分が上がるのも無理ないでしょう」
そしていたずらっぽく口を耳元に寄せてマリアは言う。
「モニカもなかなか人気あるのよ」
そんな話知らないし、あまり聞きたくないものである。私は平穏に暮らしたい。
「とにかく、私は薬草について詳しくないの。ごめんなさいね、モニカ。でも薬草に詳しそうな人に心当たりがあるから、ちょっと確認してみるわね」
そう言って、一旦受付を「受付中止」にしてから、マリアはギルドの事務所の奥へ行ってしまった。
「連絡が取れたわ。ちょっと狩場に行ってもらわないといけないけれど、会ってくれるそうよ」
マリアさんの心当たりがあるという人は、フェルマーという、冒険者と随行して薬草採集をする薬草師なのだそうだ。
マリアはどういう方法なのか、そのフェルマーと連絡を取りつけてくれた。
「そうなんですね。実物を観ながら教えてるために狩場に来てほしいってことですかね」
「えっと、こっちに来る暇がないというか、時間が取れないというか……。そのようなことを言っていたわ、ね」
いつも快活なマリアさんがなんだか歯切れが悪い。
「まあ、悪い人ではないのよ。ちょっと口は悪いかもしれないけれど」
なんだか不穏な空気を感じながらも、せっかく紹介してもらったのだ。合わない手はない。
「あの、フェルマーさん! マリアさんから! 紹介してもらった! モニカ! です!」
なぜ大声を上げているかというと、狩場でフェルマーはほかの冒険者たちと狩りをしていたから。なぜ狩りの最中に声をかけるかというと、モンスターの群れを攻略中で、待てど暮らせど終わらなかったから。
フェルマーは、今まで見た薬草師とは違ったタイプだった。無造作に長く伸ばされた髪は、おしゃれにみえなくもない。女性的な顔をしているが、獰猛に笑ったときにみえる八重歯が野性的だ。
大柄ではないが、動きが大きく、一振り一振りでモンスターを屠っていく。
彼は戦う薬草師だった。




