第十七話 実らない
「魔女の家」の入り口付近に、それは生えていた。おばあちゃんと「咲かせる」と約束した、花つけずのマンドラゴラ。
通常マンドラゴラは、湿地帯の低層樹木の下にはえているといわれている。その体のように見える部分は根菜のようなもので、土の下にある。顔は花の額の部分で、土に埋もれるか埋もれないかの位置にある。
頭には草が生えており、上から見ただけではただの雑草のように見えて、気が付かないことが多い。
しかし、このマンドラゴラはほぼ空中に生えていた。なにも浮いているわけではないが、玄関脇に群生する蔦に絡まってぶら下がるように生えており、体の部分はむき出しだ。
「根付く場所に失敗したのね、きっと」
家にたどり着くなり、その様子を確認。私の後ろからはレオンが興味深そうにのぞき込んでいたが、私の手の内にあるものの正体を認識してギョッとしていた。
「……それ、禁種じゃないか? 確か栽培は許可制だったはずだ」
「おばあちゃんが許可を得てたんじゃないかな? それにそもそも栽培じゃなくて自生だしね」
そんな会話をしながらも、せっせと手を動かして、麻布に今日回収してきた特別な土を乗せてから、マンドラゴラを包んでやった。
「名前をつけてやるべきかしら。マンドラゴラは長いもの。マンドラ、ドラゴラ……。そうね、ラゴでいいかしら」
「なぜそこで区切る」
「響きがいいでしょ。ね、ラゴ」
麻布で包まれ、服を着たようになったラゴは、心なしか表情が和らいだように見える。
「このまま栄養たっぷりの土と水をやれば、きっと花を咲かすわね」
「なんだ、こいつの花を咲かせたいのか」
私の奇行を真面目に見守ってくれていたレオンに、事の成り行きを説明した。
ラゴの世話を終え、家周りを軽く片付けたあとに魔女の家に入る。せっかくなのでレオンも招き入れた。
「ここもすでにモニカの部屋のようになっているな」
呆れたように見回すレオン。
「薬草師の家はみんなこんなものよ」
レオンは腕を組んで呆れつつも、種類豊富な薬草の数々に興味津々で見回していた。時折薬草の名前や効能を確認してくるが、そのどれもが合っている。
軍で活動する際にさまざまな薬草を使うのだろう。とても詳しかった。
そこで一応このラゴに花を咲かせる方法は思い浮かばないか聞いてみたが、「栄養剤を変えてみるとか?」と、すでに私も一番最初にやったありきたりな方法しか出してこなかった。
しばらくラゴの話やこの辺りのモンスターの動向、酒場のままの話などとりとめもなく話していたら、いつの間にか夜も更けてきた。
話の中には、やたらと私の身の安全を心配する言葉が出てきていた。ほんとにこの家に住むつもりなのか。道中危なくないのか。ソロでの活動は慣れていても危険だ。俺と組まないか。
私も鈍感な訳では無い。このレオンの言葉はただの知人への親切心ではないだろう。でも私はこの世界で、もう一歩踏み出す気にはなれなかった。
レオンが魔女の家に来てから一週間。レオンの案やおばあちゃんの案、家にあった本に書いてあることを試してみても、ラゴの花は咲かなかった。




