第十五話 騙されるのも悪くない
「モニカ?」
普段会わないところで顔なじみと会うと、一瞬状況が分からなくなることがある。そして、不意打ちで人に会うと、よくわからないことを口走ってしまうこともまた、よくある。
「えっと、あ、お久しぶりです」
言ってから、自分で違和感に気づく。
こんな場所で「お久しぶりです」も何もない。
普段酒場でしか会わない男ーーレオンに、こんな樹海の奥深く、マンドラゴラの密生地で会ってしまった。だというのに、普段会わない親戚に会ったような挨拶をしてしまった。
レオンは軍服を着込んでいるところを見ると、なにか機密行動を行っているところなのだろう。
一呼吸置いて状況がゆるゆると頭に入ってくる。背中にどっと汗が噴き出る。
(バレる、バレる)
レベルを下に偽るということが、どう悪いことなのかはよくわからない。レオンに対して悪いことをしているわけではないし、堂々としていてもいい気がする。しかし、ここでレオンにいろいろと問い詰められたりしたら、どうしたらいいのかわからなくなるだろう。
しかし、どうにもレオンの様子もおかしい。
「ああ、久しぶりだな」
私の話に乗ってくれる。
「えっと、あー、いつのまにか、こんなところにまできてしまっていたのね。まだ森の入り口付近だと思っていたー」
あまりにも棒読みだが、ヤケだ。
流石にレオンの眉も少し歪む。しかし。
「……俺もいつの間にか深入りしすぎた、みたいだな。ここは危ない。一緒に帰るぞ」
いつもの堂々とした目つきとは全く違う。こちらに視線を合わせず、周りを見回す。警戒しているのか、警戒を装っているのか。
考えてみると、いくら軍人のレオンとはいえ、こんなところで一人で立っているのはおかしい気がしてきた。単独行動とかもあるのかもしれないけれど、レオンもきっとやましいことがあるのだろう。
一瞬だけ目が合う。
お互いに、これ以上ここにいたくないという意思だけは共有できた気がした。
「さあ、帰りましょう」
お互い徒歩にしては早く樹海を抜け、町へと続く少し廃れた道を二人で歩く。
(そういえば、レオンとはよく会うけど酒場以外でこうして並ぶのは初めて)
なんとなく感慨深い思いを抱きながら。少しホクホクした気持ちで歩く。
(マンドラゴラの土も回収できたし、レオンともこうして会えた。ほんと、久しぶり。いつぶりだったかし……ら……)
黙々と歩く中、最後に会った時のことを思い出す。
(水魔法をぶっ放した時、だったわ……)
正確には会ったわけではないが。またしても冷や汗をかく。ボロを出さないようにこのまま黙っていようと思ったのだが、
「最近何をしていたんだ?」
突然核心を突く会話を始めるレオン。
「えっと、何って……」
「最近家に帰っていないだろ?」
「あ〜。何かと思ったら、そのことね」
私の帰宅事情を知っているのは、別にレオンが私のストーカーとかそういうわけではなく、単純にレオン行きつけの酒場の二階が私の家だからだ。
「最近家に当てがついてね。引っ越すことになったの」
「引っ越し? そんな金あるのか」
「もらったのよ」
「……そんな家をポンポン他人にやるものか。騙されているんじゃないか?」
レオンの眉がわずかに寄る。
冗談ではなく、本気でそう思っている顔だった。
「そんなことないわよ。魔女のおばあさんが家を移るみたいだから、庭の世話と引き換えに住まわせてもらってるの」
「なるほどな。それならわからなくもない」
「あ、そうだ。レオンも引っ越し手伝ってよ」
わざとらしく明るい声で言うと、レオンはゆっくりとこちらを見た。
レオンは深く息を吐き、こめかみを指で押さえた。
「あの大荷物を移動させるのか? 植木鉢だらけだっただろ」
レオンは私のストーカーではないが、私の部屋に入ったことは、ある。




