第十四話 慣れが油断を生むと言うけど
薬草師の仕事というのは、当初想定していたよりも難しいものだった。なにせ、多種多様にある草花の種類をまず覚えるところから始まるのだから。
特徴が似ていても、片方が家一軒に値する価値がある薬草で、もう片方が人を死に至らしめる毒草だったりするのだ。採集地もモンスターひしめく山奥だったり密林だったり。つまり、現地に行かなくては生の状態の植生を確認できない物も多いわけである。
日本に住んでいた頃とは当然名前も種類も異なるので、生半可な知識は忘れてゼロからの覚え直しだった。
「これはヨモギの葉ならぬヨポギの葉。薬になるけど肌が虹色に染まってしまう。こっちはカラスエンドウみたいだけど魔女の爪という名前。えっと、食べると美味しいけど、火を通すと猛毒になるからサラダで」
私は一つ一つ知識を反芻しながら、今目の前にある実物の薬草を確認していく。それらを教えてくれたのは、薬草師のおじいさんたちと、魔女のおばあちゃんだ。
「ここはまるで万物博覧会ね。これほどまで揃っている収穫ポイントなんて、どこ探してもないんじゃないかしら」
腰に手を当てて、固まった背中をストレッチしながら辺りを見渡す。
思いがけず住むことになった魔女の家には、外からは分からないが中庭がついており、外にある薬草の庭とは比べものにならないほど貴重種の宝庫になっていた。
ちなみに、まだ荷物を運び込んだわけでもなく、正式に住む手続きができたわけでもない。なにせ、話を受けたのが昨日。昨日の今日ではさすがにいきなり過ぎるので、下見兼植物の世話に来たのだ。
「まさか異世界で憧れの一軒家に住めるようになるとはね〜」
鍵はおばあさんから既に預かっている。これから徐々に荷物を運び入れる予定だ。
「でもこの花を咲かさないマンドラゴラは、果たしてどうすればいいものやら……」
試しに私が普段草花にあげている、魔素たっぷりの水をやったけれど、何の反応も示さず。もしかしたら毎日あげていれば何かしらの変化は見せるかもしれないが。
「それにしても、光るわけでもなし、動くわけでもなし」
よく考えれば変なのだが、私が水やりをすると草花は何らかの反応を示してくれる。なんなら、ただの草花でも効能の高い薬草に変わるくらい。
「とりあえず、土を変えてみようか。どんなのがいいのかな……。わからないけれど、お前が育った土地の土ならいいような気がするね」
と、マンドラゴラに話しかけてみる。
おばあちゃんいわく、このマンドラゴラの群生地が森の奥深くにあるのだそう。
装備もそこそこに、生身で繰り出したおかげでサクサクと進むことができた。当然日本にいた頃はそんなことはせず、自然の中を歩くときには事前準備をしっかりとしていた。だが、今は万能感に包まれていて、着の身着のままどこまででも進めそうだった。
順調な仕事。順調な交友関係。恵まれた環境。
それらで少し気が緩んだのだろうか。
本来低レベルの薬草師が単独で来ないエリアまできてしまっていた。土の採集と合わせて珍しい薬草採集に夢中になっていたとき。
「モニカ?」
レオンに会ってしまった。




