第十三話 ここ最近で一番の収穫
この世界で浮いているのをなんとなく感じてしまっているここ最近。
「リリィったら。こういう時にこそ甘いもの食べながらおしゃべりしたかったのに、会えないんだもの」
日々のモヤモヤは食べて寝て癒す私。そこにおしゃべりが加われば、体力全快。なのに、リリィはお店が盛況すぎて、第二店舗を出すために、当面いつもの行きつけのあの店には出ないらしい。休暇もその準備に費やしていて無理とのこと。
「おばあちゃんのところ行こうかな」
部屋でグダグダしていた私はガバリと起き上がり、出かける支度をする。
もちろん実の祖母のところではない。
魔女のおばあちゃんの家だ。
「魔女のおばあちゃん」というのは、何も私だけが言っている呼び方ではない。薬草師のおじいさんや薬売りの商人たちも同じ呼び方をしていた。
私の呼び方よりやや冷たい響きを帯びていたが。
「ああ、あの魔女のばあさんか。最近見かけないな」
様子を見に来た私に教えてくれた近隣の人は、厄介者を呼ぶようにそう呼んでいた。
町の人たちの会話の端々から察するに、魔女のおばあちゃんはどうやらこの地域の人から浮いている存在らしい。
日本で育った私にとって、魔女はいい魔女も悪い魔女もいて、もしくは単に薬草の知識に富んだ人というイメージなので「魔女」という言葉に偏見がないとまではいかないが、即、悪人と思うわけでもなかった。
しかし、この地域の人たちにとっては「魔女」というのは宗教上の絶対悪の位置に立っている存在らしく、そのイメージに近い存在である彼女は悪い意味も込めて「魔女のばあさん」と呼ばれていたようだ。
「話したらいい人なんだけどなー。ちょっと口は悪いけど」
ここに馴染めていない者同士という親近感もあるのだろう。話していて気持ちが軽くなったものだ。
そんな魔女のおばあちゃんに最近会えていないことがちょっと心配になってきていた。
「今日もいないのか……」
そういいつつも名残惜しく家の様子を失礼がない程度に眺めていた時。
「モニカじゃないか。どうしたんだ、私の家をのぞき込んでコソ泥のように」
心配していた当のおばあちゃんはぴんぴんして、いつの間にか私の後ろに立っていた。
「おばあちゃん!」
私はつい抱き着いてしまう。
「なんだよ、暑苦しいよ」
そういいつつも振り払うわけではないおばあちゃん。
「最近全然会えないから、家で倒れてるんじゃないかって心配で」
「そうかね。まあ、それはあながち外れでもないよ」
「え、家で倒れてたの? 大変、寝てなきゃ!」
「そそっかしいの、モニカは。最近体調が悪かったから、とうとう観念して息子の家に行っていたんだ。そっちで住むことが決まって、今日は荷物を取りにきたんだ。というわけで、モニカがこの家に来ても、もうお茶を入れてやれんよ」
「え~おばあちゃん引っ越しちゃうの? さみしいよ。それにこのきれいな庭はほかの人のものになっちゃうの?」
普通の人からみたこの家の庭は植物がもじゃもじゃすぎてお世辞にもきれいとは言えないが、薬草師の間では憧れの庭となっていたのは事実だ。
「誰も住みやしないよ。こんな町はずれの僻地で、しかも魔女の残したものだらけだっていうのに」
ここは山に近くて、薬のもとになる薬草を容易にとりに行けるので、薬づくりが生業の魔女のおばあちゃんにとっては格好の場所だった。しかし、普通の町人にとっては魅力がまるでない場所なのだろう。
「そうだ、モニカにこの家をやろう。草木の世話もこのまま私と遜色ない状態で育ててくれるだろうし」
「え、そんな、家なんてたいそうなもの、もらえないよ!」
「そうかい。じゃあ可哀想に。この草花たちは誰にも世話されずに朽ちていくんだね」
「いやいや、それは可哀想だよ! おばあちゃんは世話に来ないの?」
「この年寄りに毎日世話をするために通えと? まあ、お聞き。もちろんただでやろうってわけじゃないよ」
「え、なに? お仕事ならやるけど……おばあちゃんの依頼なんて、ちょっと怖いな」
「その仕事はね」
おばあちゃんがもったいぶる顔をして、しばし間をあける。
「この庭の世話をすることだよ」
私にとっては簡単すぎる依頼に、少し肩透かしだった。おばあちゃんは私が薬草を育てる才能があることを知っている。なんなら、育て方をあれこれ教えてくれたのはおばあちゃんだ。
「まあ、ただ単に世話をするだけじゃつまらんな。世話をするなら、この家を貸してやろう。この場合、貸すだけだ。モニカを庭師として雇って、その対価でこの家の賃料と相殺だよ。そしてもし、」
おばあちゃんは私から離れて家の隅に近寄る。それから、蔦に覆われた壁から何かを見つけ出し、そっと撫でる。
「そしてもし、この『花つけずのマンドラゴラ』の花を咲かせられたら、この家の名義をモニカにしよう」




