第36章―15
「そして、自由ポーランド軍を、そういった迂回攻撃任務に使うとなると、英海空軍を支援に充てざるを得ない事態になるけど、英海空軍は、そういった支援任務が得意と言えるかしら」
姉は辛らつな言葉を、密やかに弟に放った。
「確かに其処まで言われれば、僕でも分かると言うか、言わざるを得ないよ。
僕達のユダヤ人部隊ならば、日本軍と協力して、迂回攻撃任務を遂行できるとね」
弟は、少なからず投げやりとも言える言葉を発し、姉は声こそ出さなかったが、苦笑した。
「それに、これにはもう一つの理由がある」
「一体、どんな理由が」
「ベルリンに旗を掲げるのは、基本的に英仏とポーランドだけになるでしょう。
下手に日本人やユダヤの旗がベルリンに翻っては、後々で色々と問題になる、と懸念されているのよ。
恐らく色々なところからね」
姉は片目をつぶりながら言い、弟は姉の言葉の裏を、歴戦の兵士の勘から察してしまった。
(何しろ時代が時代である、この当時の)欧米諸国の多くの国民の間では、反ユダヤ主義、有色人種差別主義が半公然と漂っているのが現実だ。
とはいえ、時代の流れの中で、そういったことを公然と言っては、差別主義者として基本的に叩かれるようになっており、だからこそ却って、こういった差別主義が隠微に奔る事態が起きている。
そうした状況下で、ドイツの首都ベルリンで、第二次世界大戦の勝利の象徴として、旭日旗やダヴィデの星の旗が公然と大量に掲げられては、そういった差別主義を隠微に更に煽りかねない。
英仏等の政府最上層部は、そう考えるようになっており、日本政府最上層部も、そういった事態が起きることを懸念して、共同歩調を執ることにしたのではないか。
姉はそのように示唆し、弟もその示唆は正しい、と勘から察した次第だった。
「更に言えば、(セファルディム系の)私達はそれ程でもないけど、(アシュケナージ系の)多くの面々が、早く東欧に行きたがっているわ。
ドイツやソ連の占領下やその影響下にある同胞を、少しでも早く救いたいとね。
彼らにしてみれば、バルト海を迂回してのポーランドへの進撃は、渡りに船ではないかしら。
そして、ユダヤ人部隊は、P38戦闘爆撃機という新たな翼も得られている。
そういった翼を活かして、コペンハーゲン近郊からポーランドまで航空支援も可能なのよ」
姉は弟に更に話を続け、弟は姉の言葉に道理を感じざるを得なかった。
カルロは考えた。
姉の言う通りだ。
自分達は、皮肉にも上陸作戦の実戦まで経験してしまった。
そうした部隊を、バルト海上陸作戦に使用しようと、連合軍上層部が考えて、更にそうした動きを、自分達の多くが歓迎する現実があるのだ。
そうしたことからすれば、自分達がポーランドに赴くことになる、という姉の見立ては正しい気が、自分もしてならない。
その一方で、カテリーナは別の想いをしていた。
流石に憶測が過ぎるので、弟には言わなかったが。
ポーランドに、自分達のユダヤ人部隊が展開するのは、恐らくソ連を暗に挑発する為でもあるのではないだろうか。
アシュケナージ系の面々が拘るのも分かるが、私達、セファルディム系にしてみれば、余りポーランドには行きたくない、いや、スペインの方に向かいたいものだ。
そして、日本軍の一部もスペインに赴くのでは。
カテリーナは、そんな想いを暗に秘めた手紙を、弟の会話を楽しんだ後で、日本にいる妹アンナに送ることになった。
そして、その手紙の内容をアンナから知らされた米内藤子は、後で一人で考えて暴走の余りに重大な決断を下したのだが。
そんなことが将来に起きること等、幾ら頭が良いとはいえど、神ならぬ身のカテリーナは知る由もないことだった。
これで、第36章を終えて、次話から第37章に入ります。
尚、第37章では、1942年夏頃を基本にして、対ドイツ戦末期の双方の航空戦力の現状を描く予定です。
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