第36章―14
少なからず場面が変わり、メンデス姉弟の会話が基本になる話になります。
1942年7月末、カルロ・メンデスは、コペンハーゲン近郊に設けられた駐屯地で、姉のカテリーナ・メンデスと久々に逢っていた。
「姉さん、わざわざ来てくれたのに、言うべきことではないけど、本当に良かったの」
「いいの、いいの。もうすぐ大作戦が行われるから、その前に少しでも休むように言われているの」
「えっ」
何故に自分を訪ねてきたのか、気になった弟は姉に問い掛けたのだが、それに対して、姉がサラっと口走ったことに、弟は固まった。
弟の反応を無視して、姉は二人の間に出されたライ麦パンとブルーチーズの組み合わせを食べながら、言った。
「貴方だって、それなりに実戦の地獄を潜り抜けてきたのよ。それなりに分かっているのではないの」
「確かに何となく感じるモノはあるけど」
姉の言葉に、弟は手短に答えた。
「念のために言っておくわ。あくまでも、今から言うのは、私の推測で、具体的な指示等があった訳では無い。でも、今のうちに休め、と上が言い出すのは、次に大作戦を展開する前触れなのは、貴方にも経験上、分かっているのではない」
「それは、否定できないけど」
姉弟は更なるやり取りをした。
(度々、述べているが)弟のカルロは、姉のカテリーナと比較すれば、頭が回るとは言い難い。
だが、その一方で、何とも皮肉なことに、戦闘(爆撃)機部隊で戦い続けている姉と違い、文字通りに地上の歩兵部隊として戦い、様々な地獄を垣間見ていたことから、歴戦の兵士としての嗅覚は、ある意味では姉より弟の方が研ぎ澄まされる事態が起きている。
更に言えば、それこそ敵だけではなく、味方の攻撃、誤爆によって、上官を始めとする仲間を失って、又、ドイツの国民突撃隊とも戦わざるを得なかったことから、色々な意味で、兵士として鍛えられてしまい、人間としては壊れた、と言われても仕方ない状況に、カルロは陥っていたのだ。
だからこそ、姉の言葉を、カルロは否定できなかった。
まだ、戦争が完全に終わった訳では無いのに、ここまでゆっくりと過ごせるのはおかしい、そんな感覚を、カルロは心の奥底では抱いており、姉の言葉で、いわゆるピンと来てしまったのだ。
「私達、ユダヤ人部隊は、バルト海からポーランド解放の尖兵を務めることになるのでは、と私は考えているの。何しろ、結果的に上陸作戦の実戦経験を、私達は積まされてしまった。更に、それを支援する部隊もいる。日本軍という存在が」
「確かに、ポーランドを始めとする東欧地域には、ユダヤ人が多い。其処に我々が向かえば。でも、何でポーランド人部隊を使わないの」
姉の言葉に、弟は疑問を呈した。
(この世界でも、史実と同様に)亡命ポーランド政府は、自由ポーランド軍を編制しており、それこそ軍団規模に優に達する規模にまで、現在では編制を完結している。
普通に考えれば、ポーランド解放の尖兵を務めるべきは、自由ポーランド軍の筈だ。
「ポーランドに進撃するとなると、ベルリンを始めとする東ドイツ地域を基本的に制圧する必要がある。
でも、そうなったら、ドイツ軍は最期の抵抗を懸命に試みるわ。
そして、戦禍から逃れるために、旧ポーランド領へドイツ本土から大量の難民が溢れる可能性がある。
ソ連政府が、そうした事態において、
『東欧地域のスラブ人を同胞として、ソ連政府は全面的に庇護する必要がある』
と言って、軍を動かすのではないか、と貴方は考えないの?」
「確かに」
姉の言葉に、弟は唸りながら、同意するしか無かった。
これまでのソ連政府の遣り口から、どうにも自分には否定できない話だ。
「それを防ぐとなると、バルト海から東ドイツ地域を迂回して、ポーランドに進撃する必要がある」
姉はそう語った。
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