第35章―25
さて、そんなことが妻の久子とカテリーナの間にあったのを、米内洋六中佐が知ったのは、1942年5月に入ってからのことになった。
全てが終わった後と言える、久子がブレスト近郊の基地に戻った後、カテリーナが原隊復帰を果たした後で、久子もカテリーナも、洋六に対して手紙を書いて送ったのだ。
二人共に色々と想い考えるところがあったことから、それなりどころではない長文の手紙を、洋六に対して書く事態が起きた。
そして、洋六が現役の海軍中佐で、欧州の戦場の最前線にいることに加え、米内光政首相の遠縁になることからの忖度も相まって、その手紙は、相手が民間人ならば軍機に該当するとして、文面の一部どころか半分以上が黒塗りになるのだろうが、ほぼそのままで洋六の下に届いて、洋六は二人の間にあったこと等について、詳細を知ることになったのだ。
尚、洋六にしても、それ以前の報道によって、ユダヤ人航空隊と日本軍航空隊が協力してベルリンへの戦略爆撃が行われたこと、そして、ユダヤ人航空隊はベルリンの総統官邸に爆弾を直撃させる大戦果を挙げたこと、又、日本軍のベルリンへの爆撃行も成功したと言えること等を把握している。
(更に言えば、その報道内容だが、
「いよいよドイツ第三帝国にも、ラグナロクが近づいている。
その証の一つが、ベルリン上空をヴァルキューレが舞ったようなものだということだ。
ベルリンへの爆撃を断行したユダヤ人航空隊は、女性の搭乗員が占めていた。
そして、彼女達は1機を失ったが、30機ものドイツ空軍戦闘機を撃ち落としたのだ。
彼女達は、彼らをヴァルハラに導くヴァルキューレの化身だ」
例えば、BBCは、そんな報道をラジオで流した。
(尚、この報道については、ユダヤ人の女性をヴァルキューレの化身と評すのはどうなのか、と一部から非難の声が挙がるという余談までも生じた)
又、米内藤子までも、ベルリンへの爆撃を新聞記事で読んで、アンナ・メンデスと、
「カテリーナさんは、この場に居たのだろうか」
とそんな会話を交わした、という余談が起きたのだ。
(尚、カテリーナは、アンナに対して戦闘機に搭乗しているのは伝えているが、詳細は伝えていない。
だから、藤子やアンナは、この当時、カテリーナが撃墜王である等のことを知らなかった))
だが、そうは言っても、その詳細が洋六の下にまで分かる筈がない。
だから、カテリーナが部下と共にベルリンへの爆撃行に赴いたこと、更にそれに妻の久子が協力したこと、そして、ベルリンから生還したカテリーナが、部下を失ったことで心を病み、それを久子が会話で励ましたこと等を、二人からの手紙によって知ることになったのだ。
そして、二人からの手紙を読み終えた洋六は、改めて考えざるを得なかった。
まさか、自分を外して、二人が逢って話し合うことが起きるとは。
久子からの手紙では、何とかカテリーナさんを励ませた、と考えます、程度のことしか書いていなかったが、自らの兄を始めとして親しい人まで看取ってきた久子のことだ、それなりのことを話せただろう。
カテリーナからの手紙では、久子の言葉を受けて、改めて自分が死を看取り慣れていなかったことに気付かされたこと、あまり深く部下に思い入れをしないようにする、と書いていたが。
洋六は、その手紙を読み込むにつれて、あんな女性、久子がいる以上、自分、洋六への想いを完全に諦める、とカテリーナが自分に告げているように想えてならなかった。
それが、カテリーナにとっても最善だろう、そう洋六は想い考えた。
届かぬ想いを抱き続けるより、別の人をカテリーナは選んで、生きていくべきだ。
だが、寂しさを洋六は感じてならなかった。
これで、第35章を終えて、次話から第36章に入り、米内洋六が久々に登場します。
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