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第35章―23

 カテリーナ・メンデスの想いがメインになる話になります。

 実際にカテリーナ・メンデス大尉は、米内久子を見送りながら、前を向くことになっていた。

 だが、それはそれで、色々な意味で踏ん切りがついたのも一因だった。


 久子の言葉は、ある一面においてカテリーナの心の弱さを的確に衝いていた。

 実は、カテリーナは人の死を看取り慣れていなかったのだ。


 カテリーナが物心ついた頃だが、それこそ第一次世界大戦勃発から終結に伴うオスマン帝国崩壊が起きたことから、カテリーナの両親は夫婦で連れ立って、オスマン帝国を離れて友人、知人と共に別天地で一旗揚げようと考えた末に、上海にようやく落ち着いて奮闘していたのだ。


(カテリーナは1916年生まれであり、オスマン帝国の首都であるコンスタンティノープルから上海へと赴いた両親との旅路を、何とか微かに覚えている年齢だった。

 尚、カテリーナの弟妹のカルロやアンナにしてみれば、全く覚えていないか、知らない旅路になる)


 だから、上海にはカテリーナからしてみれば、祖父母や伯叔父母は誰一人おらず、それより薄い身内、いとこ等も皆無だった。

 そうしたことから、カテリーナの知人が亡くなることはあっても、身内ではないこと等から、カテリーナは完全に他人事として、20歳前後になるまで流して生きて来たのだ。


 そして、(この世界の)「上海事件」が起きたことから、カテリーナは母や弟妹と共に上海から横須賀へと赴くことになった。

 更には、父を失うことにもなったのだが。

 

 何とも皮肉なことに、「上海事件」の結果として、カテリーナの父は亡くなったものの、カテリーナの下には死亡通知書が来たのみで、遺体どころか遺骨の欠片さえも届かなかったのだ。

 そんなことから、カテリーナは父の死を実感を持って受け止められないまま、欧州へと補助部隊の一員として赴き、更には最前線で戦う軍人になってしまったのだ。


 そういった人生を積み重ねた結果として、カテリーナは人の死を真面に受け止めることなく、軍人となって、部下を失う事態が起きてしまい、慣れていないことから、却って深刻に受け止めたのだ。


(尚、実際にはカテリーナにしても、結果的に補助部隊に志願して、更には前線で戦う軍人になった以降に限っても、部下以外の周囲の面々について、それなりに戦死等しているのが、現実としか言いようが無かったのだが。


 カテリーナは、自分の心の弱さも相まって、部下以外の死については、目や耳を塞いでいたのだ)


 だが、久子の独り言(?)を聞かされたことから、自分がこうなったのは、現実を直視するのを避け続けた自分から来るモノではないか、と改めてカテリーナは気づかされることになったのだ。

 

 自分の周囲の人の死を、他人事と考えずに直視していたならば、こうならずに済んだかも。


 カテリーナにしても、自分の現状が良くないのは重々分かっていた。

 それこそ軍人として生きざるを得なかったのだ。

 そして、これまでの周囲の行動等から、気に病んでも、ということなのが理性では分かっていた。

 とはいえ、感情がどうにも落ち着かなかったのだ。


 だが、久子の言葉が、カテリーナの心を結果的に打っていた。

 久子でさえ、これまでに人の死を看取って来たのもあるが、それなりに折り合いをつけて、この戦場にいるのだ。

 自分も、部下の死を悼むのは当然だが、それなりに折り合いを付けねば、とカテリーナは前を向くことになったのだ。


 更に言えば、この一件は、カテリーナの内心にあった米内洋六中佐への想いを、結果的にだが、完全に諦めることにも繋がることになった。

 カテリーナは、歴戦の軍人である米内中佐に妻として寄り添うとなると、久子のように覚悟が無いと務まらない、と久子と話した末だが考えたのだ。

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― 新着の感想 ―
結果的に久子さんの勝ち。人生経験の差。伊達に歳を取っていなかった、ということですね。まあ、結果オーライ。
なるほど、人の死を看取る親でさえも遺体は見てないのですから死に対する心のあり方を構築できてなかったとは目から鱗でした。まあそれなりにそんな人はいますが見れなかった塞いでいたのが心の弱点となってたのでし…
 自分の足で再び立ち上がる気概を持てたカテリーナさん( ;ω; )これまでの自分を「覚悟が足りなかった」とかなり後ろめたく感じてるみたいだけど本作品を読んできた読者には──ナチス含めた世界のほとんどが…
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