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第35章―21

 米内久子としては、正直に言って、悩みながら、カテリーナ・メンデス大尉に逢うことになった。

 

 今となっては、自分の勘繰り過ぎだった、と自省していることではあるが、夫の浮気相手と考えていた女性の悩みを、自分から話してほしい、と促して聞かされることになってしまったのだ。


 更に言えば、その際には自分の姓名等を明かした上で、カテリーナと話をせざるを得ないだろう。


 自分の本音としては、自分の姓名等を秘めたままで、無言でカテリーナの想い、考えを聞きたいが。

 そんなことをしては、却ってカテリーナは最終的な結果としてはだが、それこそ当たり障りのないことしか、自分に対して話をするだけで、小園中佐からの依頼を果たせない事態が起きる気が、自分はする。


 勿論、上官命令だ、と言われたからと言って、唯唯諾諾と従うだけの軍人(そう、自分も補助部隊の一員に過ぎないとはいえ、軍人と言えば軍人なのだ)ばかりではない、のを自分は知ってはいる。


 何とも皮肉なことに、私の知識(その一部は、夫から聞かされた、必ずしも人前で公言できない情報からくるものもあるのだが)からすれば、軍人勅諭を唱えながら、その軍人勅諭に反した行動を辞さない日本の軍人も稀では無いのだ。


 本当に其処まで皮肉を考えれば、キリの無いこととはいえ、何とも微妙なことだ。

 そこまで考えつつ、久子はカテリーナに逢って、結果的に相対することになっていた。


 それは、カテリーナらがベルリンへの爆撃行を終えた三日後のことだった。

「どうにも疲れが取れないの。一人きりに暫くさせて、それで休ませて」

 等と部下を始めとする周囲に言い訳をして、カテリーナは飛行場近くの草むらにあった石に腰かけて、他の面々の飛行訓練等を、ぼーっと傍からは眺めているように見えていた。


 だが、カテリーナの内心は違っていた。

 もっと良い方法があったのではないか、そうすれば部下を失わずに済んだのではないか。

 そんな想いが内心で渦巻いてしまい、どうにも悩みが深まる一方だったのだ。


 そんなカテリーナの想いを無視するかのように、自分よりは20歳程は年上に見える日本海軍補助部隊の女性下士官が、カテリーナに声を掛けてきた。

「ちょっと、お話をしたいのだけど良いかしら」

「ええっと」

 余りにも無遠慮な声掛けに、カテリーナは口ごもりながら答える羽目になった。


「誰か、と想われそうね。米内久子と言います」

「えっ」

 カテリーナは、驚愕しながら、声を出してしまった。


 カテリーナの内心では、どういうこと、という想いが渦巻いた。

 何しろ自分の想い人である米内洋六中佐の妻が、積極的に自分に声を掛けてきたのだ。

 

 別人ではないか、という考えが、カテリーナの中では浮かんだが。

 自分の把握している情報からすれば、明らかに米内中佐の妻の久子にしか見えない。

 何で、どうして、とぐるぐるとカテリーナの内心が迷走していると、久子は、カテリーナの内心に全く気付かない様子で、カテリーナに声を掛けてきた。


「部下を失ったことを、気に病んでいると上官から聞かされて、少しでも楽になれば、と私のことを話そうと考えたの。聞きたくないのなら、耳を塞いでも良いわ。私の独り言を聞いてくれない」

 久子の言葉は、カテリーナに追い討ちを掛けてきた、と言われても当然だったが。


 カテリーナは、何故か久子の親切の押し売りを拒む気に成れなかった。

 実際にカテリーナ自身も、このままではいけない、という考えが浮かんではいたモノの、どうにも動く踏ん切りがつかない状況にあったのだ。


 久子の言葉を聞けば、動く踏ん切りがつくきっかけが掴めるかも、藁にもすがる思いまでしたことから、カテリーナは久子の独り言を聞きだした。

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― 新着の感想 ―
カテリーナさんも久子さんも、見ている第三者の我々も緊張する場面ですね。一歩間違えると修羅場というか、一触即発な気が・・・・。
まあ久子の心情は荒れ狂ってるけど、カテリーナもそうですし久子の人生からどういった話をするのか気になりますね。
 ふたりの抱える因縁を思うと見方によっては修羅場めいた状況なんだけど(・Д・)久子さんとカテリーナさんがもしもまったくの同世代だったなら色々と引きずり過ぎて「アカン」事になったんでしょうが、ひとつふた…
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