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永き夜の大陸 〜光の姫 闇の王〜  作者: ゆずはらしの
登場人物紹介&世界設定
22/22

番外編 ある初夏の日のできごと。

続きじゃなくてすみません。アトリエゆずはらに置いていた拍手小話です。

 春分の祭りが過ぎて、初夏の緑の祭りも終わった。



「明日は、森に薬草を摘みに行くわ。畑や家のこと、頼めるかしら」



 夜、ユーラはガイリスに声をかけた。



「はい、ですが……森はまだ、危ないのじゃ?」


「そんなに奥には入らないわ。日の当たる所じゃないと、見つからないものが多いもの。


 スミレはまだ咲いているかしら。うつぼ草を結構使ってしまったから、あれば良いけど……」


「ご主人さま。何だったら、一日のんびりして来て下さい。春先に村で流行り病があって、その後も体調を崩した村人に、薬を作り続けていたでしょう。


 ずっと働きづめでしたし……ちょっとしたお弁当を作りますよ」


「でも……」


「大丈夫ですよ。俺もちょっとは、薬草に詳しくなりました。誰か来ても、間違えずに渡せます」



 ユーラはガイリスを見つめ、ほほ笑んだ。



「そうね。がんばってたものね、ガイリス。わかったわ。昼過ぎまで、のんびりさせてもらう」




* * *




「シダと、うつぼ草と……あ、いちご!」



 ぱっと顔を輝かせ、ユーラは赤い実をつまんだ。



「ふふ、美味しい」







「で、俺たち何をしてるのよ……」



 少し離れた所では、紫忌がその様子を眺めていた。



「決まっています。見守っているんです」



 樹の影に隠れながら、ガイリスがきっぱりと言う。



「こんなことするんなら、堂々と一緒に行きゃあ良かっただろうに」


「それだとご主人さまが、気を使ってしまされるじゃないですか……あ、笑った。自然な笑顔! すばらしい!」


「主人バカ……いや、従者バカか、この場合」



 げんなりした顔で紫忌が言う。たまたま訪ねたところをとっつかまって、問答無用で連れて来られた。あれ、俺って確か、この小僧より高位じゃなかったっけ?


 ちなみにユーラの家では今、アルシナが留守番をしている。


 薬をもらいに来た村人はみな、半獣族の女戦士にぎろりと睨まれ、おびえながら逃げ帰った。



「おかわいらしいです、ご主人さま~~~!」



 いちごを食べるユーラに、ガイリスが悶えている。



「俺が来る意味あるのか?」


「妖獣が出たらお願いします」


「あ~、おまえじゃ役に立たないしな……まあ良いけど」



 そう言いざま、紫忌は短剣を投げた。怪しげな動きをしていた茂みが沈黙する。



「さすがです、男爵さま」


「おまえに言われても、うれしくねえよ」



 むっつりしながら、抜いた剣を一閃する。忍び寄ろうとしていた妖獣が、半分になってどさりと落ちた。



「妖獣よけの香は持たせてるんだよな?」


「はい、一応」


「それでも寄って来るって何なのよ。お嬢ちゃんの力増してねえ? それ嗅ぎつけてんじゃないの、こいつら?」




 どさ。がす。ぼくっ。




 最後のぼくっ、は、手で殴った音だ。



「伯爵さまとの事があってから、能力が強くなったみたいです」


「そうかよ……、向こうに行ってくるわ」



 ざんざか妖獣を倒しつつ、紫忌はユーラの安全を律儀に守った。




* * *




「ほう。そのような休みが取れたのか」



 夜、やってきた氷玉は、ユーラから話を聞いて微笑んだ。



「のんびりできたわ。ガイリスのお弁当も美味しかったし」



 うれしげに話すユーラ。



「妖獣が最近、出るって聞いていたから、緊張はしたのだけれど」


「あ~、当分は安全よ。あの森」



 紫忌が言った。



「そうなの?」


「そうですね。妖獣よけの香もありますし」



 ガイリスが言う。



「あ、わたし、やらなきゃならない作業があるの。昼間のんびりしちゃったから……」


「良い。そろそろ退出しよう」



 そう言うと氷玉は紫忌を連れ、ユーラの家を辞した。



「それで?」


「ちゃんと退治しました。しまくりました。くたびれましたよ、俺は」



 外に出てから目線で詳しく話せと言われた紫忌は、肩をすくめて答えた。



「あの辺り一帯のそれらしい巣は、念の為全部つぶしときましたよ」


「わたしが昼間、動けるのならば、姫の為に働けたのだがな」



 どこか残念そうな顔をして、氷玉が言う。紫忌は息をついた。



「兄上の代わりは、俺がちゃんとしときましたから。にしても、小僧が使えない、使えない。お嬢ちゃんが笑ったーとか何とか言って、ひたすら見てるだけで……」


「笑った?」



 ひやり。



 なぜか周囲の気温が下がった。



「え、あ、ええ、兄上。のんびりできたみたいで、楽しそうに笑っ……」


「そのほうら、その笑顔を見たのか……?」


「え、」


「くつろいでいる姫の、貴重な笑顔を……そのほうら、見た、のか?」



 ごごごごご。



 何かが氷玉の背後から噴き上がっている。



「や、見たと言うかですね? 俺は、その、退治をしていてですね?」


「見たのだな。わたしは、昼間は動けない。


 くつろいでいる姫の姿など、見たくとも見れないと言うのに……っ」


「いやだから兄上……うをえ!? こ、凍ってます凍ってますいろんなものが、お、俺を見ないでえええええええ!?」







 翌日。


 家の周囲になぜか雪や氷が積もっているのに、首をかしげるユーラがいた。



「変ね? また寒さがぶり返したのかしら」


「あ~……」



 優れた聴力で、昨夜の騒ぎに気づいていたガイリスは、遠いまなざしになった。



「男爵さまが何とか逃げられて、良かったですよ」


「紫忌が? ああ。半分は人間ですもの、寒いと困るわよね。氷玉はどうだったのかしら」


「伯爵さまなら大丈夫です」


「そう?」




* * *




「うおおおお、凍りつくかと思ったああああ」


「ご無事で何よりです、わが君。すばらしい逃げ足でした」


「ちょ、青雅! もうちょっといたわってくれよ! 俺は兄上のために、がんばって森の獣退治したんだぞ。


 なのにひどくないか、この仕打ち!」


「われらは、独占欲の強い種族にございますれば。わが君のうかつな言動が、全ての原因かと」


「がんばったのに。俺、がんばったのに~!」





 紫忌が一人で気の毒だった、という日常のひとこまでした。



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