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思い出の創出


 それからは、母さんからの提案で「一緒に行動しよう」となったけど、父さんから「もう彼女は充分頑張ったであろうから、解放してあげなさい」と諭される。

 モモは「まだ全然大丈夫です、お気遣いなく……!」と言うも、僕から見ても空元気なのは明らかだった。目で母さんに「お願い」と伝えると、悟ってくれたようで優しく頷いてくれる。


 モモによる抗議を三人でやんわり流しながら、また是非会いましょうと母さんから言ってもらった。モモはまだ納得のいっていないようだったけど、これ以上は難しいと判断したのか、貴族令嬢らしく恭しく一礼する。


「是非、またお会いしたく存じます」

「もちろんじゃない! ウチの子は頼りないし本しか興味ないしフニャンとしてるし情けないし自堕落だし要領悪いけど、どうか捨てないであげてね……!」


 酷い。


「そんなことないですよ、彼のおかげで私はこうやってお二人にお会いできました。その奇跡を誰よりも尊く思っています。とても今、幸せな気持ちです」

「「……ッ!」」


 口に手を当てて、感極まっている母さん。

 父さんを見ると「この子は本当にこいつの恋人なのか……。詐欺では?」と顔にありありと書いていた。

 長年一緒にいたからこそわかる父さんの心情。わかってしまうだけに嫌な気分だ。僕だって結構頑張っているというのに!


 遠くで見守っていたのであろうリュネさんと合流し、モモとリュネさんを三人で見送る。名残惜しそうにこちらを何度も見るモモに対し、母さんはウルウルとして手を振っていた。


「シルドが旅立った時より寂しい……!」

「おい」


 それからは両親と一緒に観光地巡りをした。といっても、父さんから人混みの少ない場所で、かつ遠くまで歩くのは嫌だという無茶な要望を出されてしまう。ただし、それは僕としても想定内であったので、王都でも有名な釣具屋につれていく。


 父さん、大喜びであった。無表情でありながらピクピクと体を何度も上下させている。相当嬉しい時のリアクションであり、心が爆発しそうなのを体で抑えているような形だ。父さんは釣り好きなので、きっとここにいけば喜んでくれると確信していた。

 同時に、母さんは暇そうな顔をしていて。それも想定内であり、釣具屋の横にいる旅行雑誌や観光地名所を専門に取り扱っている店へとつれていく。


 母さん、大喜びであった。落ち着いた場所でのんびり時間を過ごしたい父さんとは対照的に、母さんはアウトドア派で旅行好きである。自分の見たことのない景色を見ることが一番好きなので、店員からオススメされる観光名所を食い気味で聞いていた。


 そして、三人でローゼ島へ。前々から僕の通う学校にも行ってみたかったそうだ。母さんはここに通っていたこともあり懐かしそうにしていて。父さんは初見のため興味深そうに周囲を眺めている。

 事前にマリー先生にも伝えていて、四者面談となる。マリー先生の人柄は事前に両親には伝えていて、聞いていた通りだと母さんは楽しそうにしていた。また、僕の成績や学校での態度、品位についても満点ですと評価されて、さらに母さんはご満悦となる。


 何故か父さんは「つまらん」としていた。どうにも、上手くいきすぎていて面白くないようだ。


「田舎出身なのだ。舐めてきた上流貴族の喧嘩を買うぐらいはしなかったのか」

「シルドはそんな面倒なことするわけないじゃないの! ねぇ?」

「……」


 初日にグヴォング家に絡まれたことは黙っていよう。

 面談を終えると、時間は結構過ぎていて夕陽も沈む時間帯となっていた。

 今にも踊りだしそうな母さんと、冷静な表情で歩く父さん。いつもの二人であり、この一時だけはチェンネルにいたときみたいだ。ここにユミ姉とイヴもいれば、町では(いろんな意味で)有名なアシュラン一家の集合である。


「そうそう、シルド。まだちゃんと言えてなかったわー」

「何かあった?」

「アズール図書館の司書、合格おめでとう」


 不意に祝言を投げられて、ちょっと固まってしまう。既に父さんからはもらっていた手前、まさか母さんの方が後になるとは思っていなかった。


 たぶん、母さんなりの気遣いだ。先に父さんから言わせた方が意味があると思ったのだろう。


「うん、ありがとう」


 なので、その意図に応えるようにお礼を告げる。

 うふふふ、素敵! と言って思い切り抱きしめられる。もう十七になったのだけど、母さんからしてみれば、まだまだ僕は子供のようだ。


 ――小さく、僕にだけ聞こえる声量で囁かれる。


「自分の使命に負けては駄目よ」

「……」


 使命? 運命ではなく?

 顔を上げると、ニッコリする母。……あ、これは何を聞いても笑顔しかしない表情だ。わかってしまうのも仕方ないが、どうにもモヤモヤする終わり方だった。


「ところで、半年後の年末はチェンネルに帰ってくるのよね?」

「うん、去年は帰れなかったから、今年はそうするつもり」

「ユミとイヴもその予定なの。ユミは卒業してチェンネルに戻るから、何かお祝いの品よろしくね」

「わかった」


 となると、いよいよ婚儀も近づいてくるということだ。父さんの眉間に再び皺がよる。着実に迫ってくる娘の旅立ちに、どうにもまだ抗いたいようである。


 本当は明日も一緒にどこかへ行きたいところだ。ただ、そうはならない。明日、僕の方で用事があるからだ。父さんと母さんもそれは承知のようである。

 母さん曰く本当はもうちょっと早く来る予定だったけど、いろいろと立て込んでいて今日になったそうだ。


「いいよ、明日は二人で王都を観光しなよ。予定は立ててるの?」

「バッチリよ。日の出前に宿を出るつもり」

「父さん、体は大丈夫?」

「気遣いは無用だ。お前は自分のやるべきことを考えろ」


 いつもの父さんだ。ツンツンとしたこの言い方は初見の人は面食らうけど、慣れれば大したことはない。言葉の意味は本当なので、僕に対して自分のことに集中しなさいと言っている。


「わかった。二人とも、元気でね」

「また手紙書くから、王都での近況も教えてね」

「うん」


 母さんの横でムスッとしている父さん。

 不機嫌ではなく、何かを考えている時の表情だ。


「……シルド」

「うん?」

「残りの一年半は何をするつもりだ」

「まだ決めてないけど、たぶん司書関連でいろいろあると思う」

「司書だけが全てではない」

「……」

「人生は有限であり、約八十年程度。そのほとんどが大人になってからの時間となる。ゆえに、十代の経験、刺激、見える景色は特に価値をもつ。大人になれば日常の些細なことも気にならん。働いて寝ての繰り返しだ。今のお前に必要なのは、大人になるための準備ではない。将来、振り返った時の懐かしむ思い出の創出だ」


 ……。

 驚いた。

 父さんがこんなに話すなんて滅多にない。

 悪いものでも食べたんじゃないか。


「残りの一年半、領主になってからの先など考えるな。嫌でもなるのだ、確定している未来へのあれこれなど埃と同じ。やることは一つだ。お前だけにしか味わえない王都の宝石を、集めるだけ集めておけ」

「……うん、わかったよ」

「貴族とは慎み深く、しかし強欲でもあるべきだ。お前が子供の頃から何度も言っている。アシュラン家の家訓は――」

「出し惜しみをするな、だよね」


 僕の出し惜しみをしない主義はここからきている。

 それは今も変わらず、しっかりと心に宿っている。


「……わかっているのなら、それでいい」


 言いたいことは終わったのか、父さんは踵を返して去っていく。母さんはその姿を見ながらニコニコとしていて、僕に手を振りながら父さんへ小走りでついていった。


 見送った後、寮へ戻りながら父さんの言葉を考える。きっと今日までに僕に何を言うべきか考えた末の言葉があれなのだろう。ゆっくりと咀嚼して味わうことにする。


 二人とも、元気そうで良かった。

 同時に半年後の里帰りが結構大変なことになりそうだけど、まぁいつものことなのでいいだろう。よく周りから濃い夫婦だよね、と言われる。

 僕からしてみれば家族なのでそう思ったことはない。でも、やはり久しぶりに会ってみると、普通の人よりかはちょっとだけ、ユニークな二人なのかもしれない。


「さてと、それじゃ明日だね」


 王都の毎日は刺激的だ。特に今はより一層そう感じる。

 今頃王城はバタバタしているだろうし、王都中もそれは同じ。僕だってそうだ。


 いよいよアズール訪問とのことで、明日はお祭りのような雰囲気だろう。人生できっと一度きりとなる、他国の王子様を見に行こうじゃないか。



「魔具の国、カイゼンか……」



 空の暁はやけに赤い。

 熱を帯びて、惚けてしまいそうなほどに。


 父さん曰く、将来、今を振り返った時の懐かしむであろうイベントが、やってくる。



特典SSの一つをご紹介します!

(本編限定:「夏の雪にて、笑顔を奏でる(※紙・電子共通)」と

 BOOK☆WALKER様:「モモの恋バナ」は活動報告にまとめております)


電子書籍共通: chibi様描き下ろしイラスト(サイン付)+「旅立ち」

・シルドが故郷チェンネルを旅立つときのお話

・両親やメイド、執事など新キャラ登場

・王都へ行きたいとするシルドに対し、父親がある問いを投げかけます。

・旅立った後の両親の会話も収録


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