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父からのプレゼント


「あらぁ、あらぁ……!」


 さっきから母さんは「あらぁ」しか言っていない。空船が到着してから「戦闘モード」だったのが、(理由はわからないけど)色々あって元に戻ったようだ。

 自分の息子がつれてきた彼女をキャッキャしながら見つめる普通の母親の姿がそこにはあった。


「……」


 対し、父さんは見たことのないほどの眉を痙攣させている。ピクピクピクと高速で動作しており、父さん特有の症状だ。

 こういう時は脳内をフル回転させている時なので、目の前の令嬢をどのように受け入れるべきか、またどんな家柄の人なのか模索しているのだろう。


 ただ、それはあまり意味をなさない。答えは直ぐにやって来るからだ。ちょっと口を震わせながらも、モモは自己紹介をしてくれた。


「し、しし、シルディッド・アシュランくんと、お付き合いをしております……。モモ・シャルロッティアといいます……!」


 その言葉を聞いた二人は――

 岩のように微動だにせず……。

 見事なまでに固まった。


 うん、まぁ、ね。

 やっぱり、こうなったか。



     ◇



「あ、あの……」


 モモは不安そうな表情で声を掛けるも、意中の二人は完全に停止している。母さんは「あらぁ顔」から止まっているし、父さんも限界まで眉を引き上げた状態で止まっている。


 さすがに容量オーバーらしい。


「大丈夫だよ、モモ」

「え、ぇ?」

「貴族の間で、その名を知らぬ者などいないシャルロッティアが出たんだ。無理もないと思う」

「そ、そうなの?」

「うん。でも大丈夫。こういう場合は母さんの方から先に帰還する」


 僕の言った通り、それから五秒後ほどして、シャーリィ・アシュランが現実へと戻ってきた。ふと我に返り、モモをじぃ……と見つめてから、大輪の花を咲かせたような笑顔となって。


「なんて美人さんなの! 可愛いぃ……!」

「ぁ、ありがとうございます……!」


 そこからひたすら母さんによる怒涛の誉めちぎりタイムが始まる。服装はもちろん、髪や表情、体から流れるルカの流れ、雰囲気、今日ここへ来てくれての感謝など、細かい配慮を込めた褒め言葉を雨のように降らせていく。


「……ぇ、ぇっと、その」


 傘をもっていないモモは直撃であり、顔を真っ赤にして下を向くだけだった。嬉しいのと、恥ずかしいのと、どうしたらいいのかわからないの3つの感情が頭の中でグルグルと回っていることだろう。


 すると、ようやく父さんも復帰する。遅かったなぁ、たぶん母さんが横にいるのでだいぶ時間もかかったようだ。もし一人だったら固まっても数秒で帰還していたと思う。


「どうにも衝撃が強すぎてな。無言で失礼した」

「い、いえ! そんな」

「私の聞き間違いでね。シャルロッティアの家名を聞いて動揺してしまった。申し訳ない」

「あ、そうです。シャルロッティアで合っています」


 再度、固まる、父。

 しっかりしてくれ。

 駄目だ、これ以上やってても話が進まない。


「父さんも知っての通り、正真正銘、あの上流貴族の人だよ」

「……シルド」

「ん?」

「どれほど脅迫したのだ」

「してないよ! 失礼な!」


 にわかには信じられん、と鼻息を荒らす父を睨みながら、事の経緯を説明する。彼女は非常に優秀な女性で、才色兼備の女性であること。アズール図書館の司書になるため一緒に協力してくれた大切な存在だったこと。彼女のおかげで司書に合格したようなものであり、とても感謝していること。

 そしてつい最近、恋人になったこと。多少のアラはあったけど、これまでの道程を可能な限り丁寧に話した。


 聞いている際、母さんは口に手を当てて「うんうん!」と頷いていた。父さんは「お前がぁ?」と大変失礼なことを考えているようだった。

 話し終えると、母さんは目を瞑って幸せそうな顔をして、父さんは同じく目を瞑って指で眉間の皺をギュッと握っていた。


「理解した。どうにも本当のようだな。……脅迫ではなかったか」

「――当たり前だ」

「素敵! 本当に綺麗な桃髪。ウチの姉妹とはもう会ってるのよね?」

「はい、ユミリアーナさんとイヴキュールさん。どちらも素敵な方々でした」


 素敵かなぁ、と思うけど言わないでおいた。

 ありがたいことに、二人の反応は上々のようだ。未だに父さんは信じられないようで、うぅむと唸っている。対して母さんは矢のように質問を飛ばしモモは一生懸命に答えていた。

 アシュラン家でもこれはよくあることで、母さんを中心に話が弾む。ただ、イヴは母さんとは常に喧嘩していたので、ユミ姉や僕が間に入っていた。そろそろあのお転婆娘も落ち着いてほしいものだ。


 そんなことを考えていると、母さんが本番に入りましょうとワクワクした顔で言ってくる。既に本番だと思っていたので、何だろうか。


「もちろん、馴れ初めは運命的なものだったのかしら!?」

「「……」」


 思い出すのは、一年試験。

 朝、ロギリアへ行ったら桃髪の令嬢がそこにいて、彼女から「愚かね」と言われて始まったガチンコの試験対決。夢を追う者と諦めた者による、己のプライドを駆けた戦いは、マリー先生の(職務違反ともいえる)ご助力のもとギリギリの勝利を収めた。


 あれを、言わなければならない……。

 ロマンチックに、言わなければならない……。無理じゃん。

 マリー先生に迷惑をかけないよう、全力で話の構成を組み立てていると、モモは笑顔でコクリと頷く。


「はい、それはもう」

「本当!?」


 さすがは画麗姫……!

 この僅か数秒足らずで構成を終えたというのか。やはりモモは天才だ。あの一件を上手に話すのは相当に至難だけど、きっと彼女ならできるだろう。


 僕のやるべきことは、そこの援護射撃だ。

 上手にフォローしていきたい。


「私が絵を描いている時に、シルドくんが現れたんです」


 ……。


 ん?


「実は私の絵を何者かに盗まれまして。見事に取り返してくれたのが、シルドくんでした」

「まぁ、やるじゃないシルド!」

「……」


 まさか。


「そこで彼はこう言ったんです。一緒に学校へ行こうって」

「シルドもそこまで言うようになったのね!」


 ……。


 …………ッ!


 隠蔽だ!


 え、マジで!? あの激闘を全部塗り替えるの!? 

 めちゃくちゃ頑張ったんだけど。ありえないぐらい頑張ったんだけど。それなのに、ものの見事に違う方向へ切り替わってるんだけど!


「そこで私も思ったんです。シルドくんの夢のためにも、一緒に頑張ろうって」

「素敵……!」


 ぐぬぬぬとモモを見ると、相手は「言えるわけないじゃない! 愚かね」と顔に書いてあった。確かに一年試験を言えばマリー先生のことも言うことになる。あれを第三者に漏らすわけにはいかないだろう。


 たださ、だからと言ってそれはズルくないか? 納得できるものではない。なので適当にピエロを演じながらモモの言っていたことの矛盾をつこうと思う。頑張ったのだから、それぐらいは許されるだろう。

 と思っていたら、父さんから黙って見つめられていた。そして軽く顔を左右に振られて。


「……」


 止めろ、と言われているようだった。

 ……うーん。


「大変だったけど、今思い出すといい思い出かな」

「成長したわね!」


 母さんはテンション爆上げで話を聞いている。ただ、どうにも父さんには嘘だとバレているようだ。こういう時の洞察力は僕より上なので、仕方ない。


 それからしばらくして、話に一段落がつき、四人で図書館を出た。

 橋の上ではモモと母さんが楽しそうに談笑している。いろいろあったけど、最終的には母さんからの印象は満点のようである。いつかは真実を言わないといけないのかもしれない。


 ただ、言わないで進めるというのもありかもしれない。どちらにせよ、それについては今後モモと話し合って決めていこう。


「シルド」


 後ろから声をかけられ振り向くと、父さんが本湖を見ながら目を細めていた。


「アズール図書館の司書とやらは、今後何をするのだ」

「まだ聞いていないんだ。数週間後にある祝賀会を終えてから教えてもらう予定だよ」

「あくまでもお前はチェンネルの次期領主となる男だ。兼業を許されたからと言って、そちらを主軸にはしないよう注意するように」

「わかっているさ」


 それはちゃんと伝えるつもりだ。

 自分のやるべきこと、やらないといけないことは理解している。それでも「実現させたい」ことがあって、僕は叶えることができた。領主と司書の兼業を。


「そして、改めて言わねばならんことがある」


 父さんの視線は本湖から僕の方へ。

 鋭い眼光をこちらに向けられて、無意識に背筋を伸ばしてしまう。

 コツコツとこちらに近寄ってきて、威厳のある顔つきで数歩前まで迫った。

 

 嫌な空気だ。

 何か嫌なこと言われそうだ。

 でもそれで怯む僕とは、とうにお別れなのだ。

 だから、何を言われようとちゃんと返そうと思う。



「おめでとう」



 そのため、まさかの返しに固まってしまった。

 開いた口が塞がらない。絶対に父さんの口から言われないであろう摩訶不思議な言葉が飛んだ。

 言った本人はむすぅと眉間に皺を寄せたまま、眉をピクピク上げて。


「しかし、だからといって羽目を外すな。貴族として恥ずかしくない振る舞いをするように」

「あ、うん。わかった」

「それと、これを渡す」


 いつの間にか小さな箱をもっていた父さんは、半ば強引に僕へ手渡した。

 

「これ、何?」

「開けてみろ」


 言われた通り開けてみると、中に入っていたのは……一本の(かんざし)だった。


「うわぁ、新しいやつだ!」

「そのうち役に立つ。好きに使えば良い」

「……あ、ありがとう!」

「俺からは以上だ。帰るぞ」


 用事を済ませて淡々と歩いていく父さん。

 母さんはご満悦でそんな父さんを出迎える。モモは不思議そうな表情で僕を見ていた。簪は、いつも僕の後頭部に挿しているものだ。本を読んでいると髪とか身なりとかどうでもよくなってしまい、頻繁にその件について家族から怒られていた。


 それを見かねた父さんが母さんやウチの姉妹に提案し、七歳の誕生日の時に簪をプレゼントされた。この簪のデザインはとても素敵で、なんとブックマーカーにもなる優れものだ。あとでモモにも説明しよう!


「ところでシャーリィ。今日はこの後、酷い雷雨とのことだ。あまりよくはない。早めに雨宿りをした方がよい」

「それなら大丈夫よー」


 ニッコリと微笑む母さん。


「きっと晴れるわ。なんだかそんな気がするの」


 その日、一滴も雨が降ることはなかった。

 雲一つない、快晴の空だった。



【第1巻 カバー解説その2】

下の方に第1巻のカバー画像がありまして

シルドの顔にご注目していただきますと

簪を挿しています……!

イラストを描いていただいたchibi様のデザインでして

ブックマーカーにもなる素敵な簪です!


他のキャラクターもカラーでデザインされていて

大変素敵な仕上がりになっております!

是非ご覧くださいませ……!

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― 新着の感想 ―
お母さんが着いて早々戦闘モードだったのはもしかして、ジン王子関連の覗きか尾行に気が付いたからか?それで魔法による空間移動をしたのかな。
まずは家族に色々認めてもらえて良かったですね。 ついでにお父さん、帰る前にちょっと息子と親友のドツキ漫才も見ていきませんか。 きっと卒倒するからw
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