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両親への紹介


 納得のいかない展開に、むむぅ、と不満げな母さん。口を真一文字に結び、頬を少し膨らませてご立腹だ。

 

「王都にいた頃は入れたのに……」

「そりゃ都民だったからね」


 無敵のように見えても穴はある。母さんは結構抜けているところもあるのだ。さすがは僕の母親だ。その部分はしっかり息子に引き継がれた。


 海を叩き割った時も、衝撃で必要以上の魚が取れてしまい大変だった。町中の皆でなんとか食べようとしても無理な量だったのだ。しかも魚は足が早い。さすがの母さんも、自分一人ではどうしようもないことには対処できない。

 その際、あれこれと手を打ってくれた人が父さんだった。加工できるものは速やかに行い、近くの山地付近にある町へ直ぐに連絡。新鮮な魚を安く買えると交渉し、即座に契約を取り決めて一気に運搬を行った。


 父さんと母さんは互いを補う関係にある。それぞれの短所を上手にカバーし合っている夫婦なのだ。

 子供の頃からそれを見てきたので、きっと他の領主のご家庭もこういうものだと思っていた。十歳になった頃だろうか。ウチが特殊なんだと悟ったのは。


「許可証をもらえたよ、入り口付近ならこれで入れる」

「せっかくなら館内を歩きたいわ」

「駄目。そうしたら旅行客でごった返すことになるから、本来の目的で来ている人たちの邪魔になる」

「……そうね」


 むぅ、と最初は不満げだった母さんも、次第に納得したのか頷いてごめんねと言ってくれた。その横では、生まれて初めて「本からの押し売り」に困惑している父さん。

 目で「なんとかしろ」と訴えてくる。

 読まないと言って軽く押し返したら大丈夫だよと伝えると、それを実践し、どこかへ飛んでいく本を無言で見送る父の姿がそこにはあった。


「……変な図書館だ」


 そうポツリと言う父さんは、ちょっと面白かった。

 入口を抜けると、上質なカーペットを敷いた広間に出くわす。前世でも巨大な建物は最初にエントランスホールがあり、アズール図書館もそれは同じだ。


 走り回る子供や、一緒に手を繋いで歩いている親子、誰かを待っているのか柱に背を預けて佇む人、ご年配の夫婦がソファに座って談笑しているなど、多種多様な人間模様が目に飛び込んでくる。図書館内は原則おしゃべり禁止だけど、ここでは問題ない。


 仮に声を出しても陣形魔法“遮音断”によって、館内に入る音は遮断されるからだ。小さな子供におしゃべり禁止は中々に難しい。

 そのため、ぐずったり興奮気味な子は一度こちらへ移動させられるようになっている。みんなのえほんエリアが入口から最も近いのはそれもあるのだ。


 実際、絵画から泣いている子供を抱きかかえたお父さんが出てきた。一緒に絵本もついてくる。見ると、何故か子供の涎らしきものが絵本にべっとりついていて。


「美味しくない!」


 たぶんご馳走のイラストを挿絵に入れている絵本だったのだろう。子供はそれを見て絵本も食べられると解釈し噛みついたようだ。

 後ろで僕の母さんが興味深そうに「あの子、良い発想してるわぁ!」と褒めている。さすがはアズール人。自由な発想は僕らの専売特許である。


 エントランスホールには喫茶店もあるので、そこへ行き三人で座った。

 厚みの薄い本が軽やかに飛行してこちらに来て、よいしょと自ら開く。中にはメニューがあり、三人とも図書館限定の紅茶を選択。


 しばらくして、本自らが器用に紅茶を挟んでもってきて、机に置いて去っていく。それを無言で見つめていた父さんは、顔を下に傾けて小さく呟く。


「……本当に変な図書館だ」

「そうかな?」

「まぁ、お前がいいならそれでいい。それと、シャーリィ。騒ぎ過ぎだよ、落ち着いたか」

「えぇ、ごめんなさい。少し張り切りすぎちゃって」


 少し……? 父さんと一緒に頭上に疑問符を浮かべるけど、スルーに徹する。

 窓に視線を向けると、花壇や庭があって、その先には本湖の美しい景色が広がっている。今日も元気に本たちは空を泳いでいて、湖のルカの煌めきも綺麗だ。


 万の言葉で伝えても、これを実際に見た人には勝てない。

 本湖の視覚的なインパクトは、世界随一だと思っている。ひとしきり店内を見渡した後、父さんはふぅ、と息を吐いた。


「とにかくだ。ようやく落ち着いて話をできる」

「本当ね、最初はバタバタしちゃって大変だったけど」


 ほぼ母さんのせいなんだけど、と口から出そうになるけど父さんから「言うな」と目で諭されたので黙っておく。

 そうして二人は目の前にある紅茶を口に含んで……パァッと表情を明るくした。そして互いに顔を見合わせて再度紅茶を見る。顔には「うまっ!」と書いてあった。


 アズール図書館の喫茶店で本から提供される紅茶はとても美味しい。どうやって作っているのかはさっぱりわからないけれど、温度・風味・酸味・舌触りといった全てが実によくできている。

 その美味しさは、ローゼ島の貴族科領内にある喫茶店・ロギリアのマスターであるゴードさんも頷くほどだ。彼曰く「紅茶を愛する人によって淹れられている」とのこと。実際は人じゃないんだけどね。


 なお、父さんはその数秒後には、いつもの眉間に皺を寄せた表情となっている。あまり感情を表に出したがらない人なので、最初はリアクションするけど、直ぐに元に戻るのだ。

 アシュラン家では当たり前なので気にしない。また、母さんはそんな父さんを見てニコニコしているのもお約束だ。


 良い関係だな、と思う。

 互いの長所と短所を把握して、補う関係だ。衝突やいがみ合いもあっただろうけど、紆余曲折しての今である。

 子供の頃から、あまり二人の喧嘩を見たことはない。もちろんゼロではないけれど、普通のご家庭よりは少ない方だと思う。


 自分もいつかはそのような形になるのだろうか。

 世間一般の御夫婦のように、一緒になることを選んだ人と家庭を作っていく。もちろん独り身でやっていくのも選択肢としてはありだと思う。前世では独り身を選択する人は昔より増えていたと記憶している。


 ただ、僕の場合は世継ぎも必要なので、そうも言っていられない。アシュラン家の次期当主として、使命を果たさなければならないのだ。


「シルド、そろそろ頃合いじゃないかしら?」

「うん、そうだね」


 母さんから合いの手を入れてもらい、頷いた。母さんはさっきからずっと嬉しそうだ。いつも僕に向ける笑顔をしている。目元はイヴにそっくりで、笑顔の仕方はユミ姉と一緒。

 二人はちゃんと母さんからの良さを引き継いでいる。……悪いところもガッツリ全て引き継いでいるが、今回だけそこは無しでいきたい。


 父さんは目を瞑って何かを考えているようだ。思えば、父さんからしてみたら自分の子供の恋人を初めて紹介されるものである。

 ユミ姉との縁談をことごとく却下してきたから、まだそういう経験はないのだ。これに関しては母さんから怒られていて、そろそろ娘離れの時も迫っているだろう。その際は、いろいろと助けてあげたいものだ。


 ただ今は、僕の話をしようと思う。

 

「二人に紹介したい女性がいるんだ」


 あらまぁ! と破顔する母に、本当にいたのか、と眉をつり上げる父。


 喫茶店の入り口から一人の女性が現れて、こちらに歩を進める。


 店内にいた人たちの表情が変わった。突如としてとんでもない令嬢が現れたのだ。

 母さんの顔がさらにあらあらあら! として、父さんの眉にいたっては限界まで跳ね上がっている。落ち着いてはいるものの、にわかには信じられないような光景のようだ。


 対して、意中の人も中々に大変そうだ。


 どの服にするのか結局決められなかったようで、朝になっても「まだ決まってないの」と連絡をもらった。これに関しては僕から助言できることな皆無なので「どんな服でも絶対に似合ってるから、モモの好きな服でおいで」と伝えた。


 喫茶店にいる全員の視線は今、一人の女性に注がれている。

 着ている服は、ミルクをたっぷり混ぜた紅茶のような、柔らかなロングドレスだ。胸元には繊細なレースの刺繍が施され、襟元を端正に閉じている。

 また、ドレスの右側に大胆に差し込まれたミッドナイトブルーのオーバースカートはとてもオシャレで可愛かった。彼女のもつ清楚さと優しさを表現したようなドレスである。



「は、初めまして……!」



 顔を真っ赤にしながらの、モモ・シャルロッティアの登場であった。


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― 新着の感想 ―
初めて感想を書きます。 4日で一気にすべてを読みました。 面白かったです。 お母さん凄すぎ!!!!。何者でしょう? 王都の没落貴族の血筋と書かれていましたが、 現在のアズール三傑の血縁者ではないかと思…
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