稀有と拡充
モールでの買い物中電話を受けた明は、コタロウとドクペを抱えながらモールのとある場所へと向かっていた。
夏休みであるからか、モールはそこそこ混んでいる。明は電話の主や内容を聞いてくるコタロウに、声のボリュームに気を配りながら答える。
殆どの人が認識出来ないコタロウ、当然その声も認識されはしない。そのためボリュームを間違えると、往来で会話風の独り言を言うやばい人になってしまう。
そんなこんなで歩いていくと、目当てのゲーセンにたどり着く。
「さてあいつらは何処に……」
辺りを見渡すと、子供をアンパンマ〇の遊具に載せるお母さん、プリクラを取りに来たカップル。太鼓を叩く姿で人だかりを作る達人。クレーンゲームで山ほどの景品を抱える人。スロットに張り付く無精髭のおっさん。色んな人がゲーセンを楽しんでいた。
「よっ、アキラ。よくぞ来てくれた」
「何事よ琉希?頭数欲しいってさ。たまたま近くに居たから来れたけど」
「いやぁ、お前なら来てくれると信じてたのよ」
とガハハと効果音がつけられそうなほど快活な笑顔を浮かべ、明の肩をバシバシ叩く。
琉希と呼ばれた男は褐色の肌に短い金髪の如何にもヤンキーな風貌の男。恵まれた男らしい体躯に程よくついた筋肉に、ゴールドアクセサリーとピアスまでしているから尚のことヤンキーにしか見えない。
「んで、トラブルメーカーは?」
「あぁ、電話の件か。アレ見ろアレ」
琉希が指さした先には、クレーンゲームの前で大量の景品の入ったを袋をいくつも抱える少年とそれを遠巻きに眺めながる店員たちが居る。
店員たちは、インカムやらで何やら頻繁にやり取りをしている。そしてそんなに店員に、見られながら我関せずにプレーを続ける少年がいた。
「……なにしてんの?加減知らないの?」
明の見知った顔。明と琉希の幼なじみが、クレーンゲームの景品を乱獲して、店員にマークされている現場を目撃し明は言った。
「止めたんだが……あいつの質知ってんだろ?」
「で、あれを止めろって?琉希が止められないなら無理だよ?」
「そこはもう諦めた。だからあの景品の運搬要因だ。正直猫の手も借りたいくらいでな」
そんな間にも少年は次々にぬいぐるみやらお菓子やらを手当り次第
乱獲していく。そして、その背後に近づく貫禄のある定員。
「あ、ストップ入った」
「入ったな。じゃあもうすぐ帰ってくるな」
するーっと人混みの間をぬい、少年は2人に近づいてくる。両手に抱えた大袋を何袋も引きずりながら歩いてくる。少年に琉希が軽く手をあげる。
「よーちゃーさん。相変わらずやってんな」
琉希に声をかけられたちゃーは、真面目な顔して喋ってる2人から目を逸らし明の方をむく。アニメの柄が入ったオレンジパーカーに緑髪。黒縁メガネに、赤色の無線ヘッドホン。とても上半身が面白い色合いになっている少年は、不思議そうな顔で言った。
「……ん?あぁ。明なんでここに?」
「呼ばれたんだよね。面白いのが見れるよって、んでどう?」
「どうって?……あぁ出禁だってさ」
「なんでだよ」
「……取りすぎって。クソイージーにしてるほうが悪くね」
無言でいくつか袋の口を2人に渡すちゃー。2人はそのまま受け取ると近くのベンチまで言って袋を広げる。
「何件目だよ。クレーンゲーム出禁。学習しろよって話な」
「4件目くらいじゃなかったけ?にしても色々とったねぇ。どうする?プレゼントしてまわる?」
「……覚えてない。基本要らないしそれでもいいよ」
明の腕の中にいたコタロウが袋の中身を興味深そうに覗いている。琉希が袋の中を食品とそれ以外とで分けながら聞く。
「食いもんは要るんだろ?分けとくぞ?」
「……甘くないのは要らない」
黙々と分別していると、明は猫用のおやつが入っているのを見つけた。こんなものまでクレーンゲームに並んでいるようだ。
「ちゃー、これ貰っていい?猫用チュール」
「そんなのまで取ってたのかよ。手当り次第過ぎんよ」
「……いいよ。その子用でしょ?」
明そしてコタロウの体がはね。ギギギと効果音がなりそうなくらいぎこちなく、2人はちゃーの方へ振り向く。琉希がちゃーの発言に大笑いしながら言う。
「それしかないだろ。まぁ明が猫飼い始めたってのは初耳だったけどな」
その瞬間、明は2人の腕を抱えて走り出す。それに並走してコタロウも走る。急に腕を引っ張られた2人は、困惑の声を出しながらも人通りの少ない非常階段の方へ素直に引っ張られる。
「コタロウ」
コタロウは、辺りを見渡し人の目がないことを確認すると口を開け一言。
『終焉と終端無き迷宮』
その瞬間、4人の周りの空間が一瞬揺らぐ。そして4人の姿ごとかき消した。その場に残るのは、右半身がなく綿のはみ出た人形だけであった。
「おい、明何事だ?そしてここはどこだ?」
踊り場から上り下りと伸びる階段、その1セットがひたすら敷き詰められた異質な空間に気付けばそこはなっていた。
螺旋状に続く手すりの間からは数え切れないほど、踊り場とそれを繋ぐ階段が見て取れる。
そんな光景を見れば当然の疑問である。だからこそ琉希は明に詰め寄る。だがその意識の大半は、明の足元の猫に割かれている。
「答えたいとこなんだけど、私もいまいち……」
「それを答えるのは私が適任だにゃん」
コタロウは、琉希とちゃー2人の前に出る。そして、近すぎない人の足で3歩ほどの距離を開けて止まり説明を始める。
「ここは私の脳力で作った異空間にゃん。突然攫う形になってしまったけど敵意がないのはわかって欲しいにゃん」
「能力、異空間ねぇ……信条的にも信じる他ないんだがなぁ」
「……信じる。その方が面白そう」
「あの二人とも判断早くない?もう少し悩んでも良くない?」
2人は辺りを見渡したり、コタロウ見たりと興味深そうに視線を移動させながらそれでも、2人ともが特に悩む素振りも見せず信じると即答する。
「それは、明も同じだったにゃん」
たしかに明自身も受け入れること自体はすんなりであった。それに黒い靄より、明らかに異質な空間に隔離される方が信じるにたるというものだ。
「そうだっけ?てゆうかこんな風になってたんだね。思いがけず中見れてよかったよ」
その発言にギョッとした表情をする琉希と、驚きと呆れの混じった表情をするちゃー。
「無鉄砲にも程があるぞ」
「……頭足りてない」
「そんなにか?」
「そんなにだ。お前と猫との関係性は知らんが、お前は人の事を疑わなすぎるきらいがある」
完全なお叱りモードになった琉希は明をその場に正座させる勢いで、明の無鉄砲さと恐怖心の無さを咎める。
直接怒られている明に加え、コタロウもいたたまれないとでも言いたげな雰囲気で俯く。
「あの、別に騙す気とかなかったにゃんけど、そう言われると間接的に私も考えなしって責められてる気がするにゃん」
「まぁ俺らからすると急に拉致ってきた得体の知れないものヤツでしかないからな」
「私は悪い猫じゃないにゃん?」
コタロウは目を見開き、猫の可愛さを最大限に活用しアピールする。ちゃーはその様子にジト目で答える。
「……あざとい」
「ダメかにゃ。じゃあ私と契約して――」
「それは悪い猫だ。とっちめんぞ」
舌を出して、ウィンクをするコタロウ。意外とこの猫表情が豊富なのである。
そんな様子に毒気抜かれたのかちゃーは地べたに座り、琉希も腕組みを解き壁に寄りかかる。
「あ、ちなみに出れるんだろうな」
「もちろんにゃ」
無限城の如き永遠に続く、踊り場と階段そのワンフロアで4人は満足の行くまで、今までの明とコタロウの話、能力の話なんかを満足の行くまで話し合うのであった。




