幕間1
深夜白猫は部屋の片隅から、疲労困憊で泥のように眠る部屋の主を胡乱げに見つめていた。黒い靄によって付けられた傷は既に身体から消え、その白い体毛は月明かりで銀のように煌めいていた。
「……どう考えても変よ。自覚もする前から迷い込んだ?イレギュラーの一言で済ますのは軽率よね。それに……ねぇ明は一体だれの声を聞いたの?」
コタロウは訝しげな声色で小さく明へ問う。その瞳は真剣で、けれども明は眠り続けたままで起きるけはないど微塵もない。
「そもそも私は虚構世界に人が居るなんて頭の片隅にも浮かんでないの。背後から明に抱えられて助けられた時
、腰を抜かすくらいに驚いたのよ。そんな私が誰かに助けを求めるかしら、ねぇ」
それこそありえないとでも言うようにコタロウは首を振る。
「足りない。あまりにも情報が足りない。……あの様子、嘘をついている感じじゃない。あまり関わりすぎるのは得策じゃない?」
すやすやと眠る明の顔を凝視しながらコタロウは呟く。明はその声に答えない。
「けれど、前例の無い事は予想外の進歩を産むことも有るわ。……ただ、私の旅になにか進展がある可能性もある。ひとまず、敵対はなし」
コタロウのしっぽがゆらゆらと揺れる。チシャ猫のような笑みを浮かべ明を見つめる。その様子はある種の神聖さと恐ろしさを共存させていた。




