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【ニキ】001話:~自由の1歩。始まりの1歩。迷宮へ~

 迷宮に来た。

 ここに来るまでにこの迷宮を内包する都市の人間の挨拶とか、女神さまからの解説とか色々あったんだけど大事なこと以外は頭に入ってない。

 その大事なことで僕が一番注目した仕組みがこれだ。


 女神ちゃんねる。


 活用のプロセスは至極簡単で、迷宮で魔物を倒す、迷宮ポイントを得る、女神ちゃんねるで使う、これだけだ。

 まぁ迷宮ポイントの獲得方法には階層の突破とかもあるみたいだけど、僕がなにより飛びついたのは「女神ちゃんねるを効率よく用いれば迷宮暮らしができるよ!」という、デフォルメされた女神さまによる「これがオススメ!」の紹介文。


 それは水を得た魚を遥かに凌駕する今の僕にとって、麻薬のような危ない香りのする誘いだった。

 ごくり、と喉を鳴らし。

 まぁ1回迷宮に行ってみないことには暮らすかどうかまではまだ決めかねるよな、といそいそと足を運んだわけである。


 迷宮の入り口は簡単に表して地面の奥底に向かう広い階段だ。

 階段の先はどうしてか暗闇で見通すこともできず、またこの階段の周囲は広い範囲でなにもなく、一見して寂しいとさえ思う形でぽつん、とあるのみだ。

 まぁそこら辺の事情は地上の都市内部に気が向いたときにでも調べてみるとして、僕は腰のシミターを抜刀して階段を足早に降りて行った。


 実はまだちょっと緊張してるのだ。

 身体の自由を取り戻した高揚と、僕生来の気質が胸の中でぶつかり合っている。

 でもいい、これがいいんだ。

 あの無機質な病室での生活は、こんな自分でも抑えられない感情のぶつかり合いなんて味わえなかった。

 ただ暗く、陰湿に。

 それがあの頃の僕だった。

 だから僕の足取りは止まらないし、顔も傍目からしてニマニマ気持ち悪いんじゃないかと思う。


 ……そういえば配信してるんだっけ、これ。


 思ったより長い階段に迷宮内に入るまでの暇つぶし程度にと、ちょっと女神ちゃんねるの配信画面を覗いてみる。

 いや覗いた瞬間溢れかえるコメントの濁流にこりゃ無理だと閉じようとした──瞬間。



〈コメント〉

:おいあんたもう迷宮潜るのか?

:佐々木龍郎……ジャパンの少年か、仲間を募ったほうがいい

:1人で行くなんて無謀だ、それは蛮勇というものだぞ

:なにやら高揚しているようだけど、現実は甘くないぞ

:引き返すんだ、今ならまだ間に合う



 さっきまで流れが早すぎてとても読めなかったコメント欄が、一気に緩やか……というか明らかに届くコメントの範囲が限定されて見やすくなった。

 デフォルメ女神さまがピコンッと現れてまた吹き出しが出てくる。

 女神のほうで抜粋するコメントをリアルタイムで選別しています……?

 それって配信を両者楽しむなら最高の助けじゃないか!?

 いまいち抜粋されたコメントが僕の迷宮行きを否定するものばかりで納得いかないが、それでも僕は女神さまの度重なる恩恵に感謝の念を深くした。


 改めてコメントを見る。

 さっきとは別種の緊張でなにも言えねぇ。


 まずいな、病室1人無言生活が長すぎて人との会話を忘れてしまったのか僕は。

 さっき声の出し方を思い出したばかりだというのに。


「……ま、それもいいか」


 独り言なら呟けた。

 やりたいことをやる。

 やりたくないことを無理にすることもない。

 そう思うことにして、僕はようやく終わった階段の最後の1段を、踏み〝抜いた〟。

 地面に大穴が空く。


 うそだろ。


 ~~♪ ~~~~♪


 なんと地面がなくなって落下するモーションに入って、あのBGMが流れ始めた。

 あまりの出来事に表情筋が固まってニマニマしながら落下する。

 今の僕シュールすぎやしないか?

 なんの抵抗も足掻きもせず、そのままBGMがサビの部分に入ったところでto be continued……。

 世界は固まり、僕の視界はブラウン色に染まった。


 BGMを聞きながら色んな角度で俯瞰的に自分のマヌケ姿を見る時間。

 ニマニマしながら笑顔で無抵抗に深い穴に落ちていく僕の姿が、右、左、上、顔面ドアップ、配信画面コメント付き、とご丁寧に様々視点を変えて見せてくる鬼畜の所業。

 今の僕ってこんな風に見られてるんだー、とか思ってるうちに。


 戻った。


「うーんこれはクソ迷宮!」



〈コメント〉

:え? え!? どゆこと!?

:今死んだよね? 落ちたよね?

:あ~グロ注意! って叫ぼうとしたらまさかの謎展開キター!?

:あのBGMなに!? なんで異世界でネットミーム再現してんの?ww

:あれ、これってギャグ配信かなにかですか?ww

:いやてか龍郎ニキの言う通りこの迷宮クソ過ぎだろ!

:まさかの1歩目から落とし穴は誰も予想しないんよ!

:こ れ は お も し ろ い ぞ



 ……おや?

 今無意識に本音が口から漏れたな。

 それが図らずも配信の視聴者とのコミュニケーションになってるような……うん、もうこの先ずっとこんな感じでいいや。


 落ちる前の階段のラスト1段の上で立っていた僕は改めて階段の下の地面を見る。

 確かにそうとわかってみれば他の地面より若干窪んでいるようだった。


 いやわかるか!


 なんで階段の先暗闇で光があんまりないんだろうって不思議だったけど、もしかしてこれって迷宮の殺意かなにかですか?

 この先迷宮内部ってこんなのばかりですかー?


「ふぅ……おもしろくなってきました!」



〈コメント〉

:そうはならんやろ!

:どういう神経してんねん!

:ヤバイこのニキ推せるかも

:なんかよくわからんけど安心して見れるのか?

:よし行け龍郎ニキ! 俺はもうお前を応援するぞ!(笑)

:なんか思ってた命懸けの迷宮配信じゃないなここww



 迷宮の姿勢。

 配信の方針。

 女神さまのオススメ。

 すべて理解した。


 ここからだ、ここからが本番だ!

 僕は決意を新たに、始まりの1歩を踏み〝抜いた〟。


 ~~♪ ~~~~♪


 to be continued……。

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