ー6ー ひそやかな想い
笑いの余韻を胸に、ロイたちは荷台に積まれたとうもろこしと共に村へ戻った。
夕暮れの風は少し涼しく、畑道にはオレンジ色の光が柔らかく差し込む。土と草の香りが鼻先に心地よく漂った。
村に着くと、広場はすっかり整っていた。
屋台の列はほぼ揃い、ランタンの灯りがやわらかく揺れる。子どもたちの声や笑い声が遠くから聞こえてくる。
ロイたちは荷台を片付け、肩の力を抜いた。
「すっかり準備が終わってるな」
ビットが感心したように屋台を見渡すと、村はすでに祭りの空気に包まれていた。
そのとき、広場の端から軽やかな足音が近づいてきた。
リハーサルを終えたユームだ。
朝から灯花祭で披露される寸劇――子どもたちが演じるオルセリア神話の一幕――の練習に出かけていたユームは、衣装の裾を揺らしながら駆けてくる。
「お兄ちゃん!」
大きく息を吸い込み、笑顔で駆け寄るユームに、ロイは柔らかく微笑んだ。
「ユーム! リハーサルはどうだった? ちゃんとセリフ言えたか?」
「うん! ちょっと間違えちゃったけど、大丈夫!」
「そっか! 楽しみにしてるな」
ロイはそう言ってユームの頭を軽く撫でる。
「ちょうどみんなで屋台巡りしようと思ってたところなんだ。一緒に行こう」
ユームの顔がぱっと輝き、一行は自然と広場の中心へ向かった。
夜の灯りが強くなるにつれ、屋台の並びは色鮮やかに浮かび上がる。
灯花焼き麺の香ばしい匂い、雲菓子の甘い香り、ランタンをのぞき込む子どもたちの笑い声――村は祭りの活気で満ちていた。
「そういえばね!」
ユームが弾む声で言った。
「リハーサル中に聞いたんだけど、イレーネさん結婚するんだって! しかもノヴァリスの花畑でプロポーズされたんだって!」
「ノヴァリスの花畑で告白されるなんて、素敵!」
アンの目が輝いた。
「えっ……えっ?」
ビットが思わず声を漏らし、オロオロと視線を泳がせた。
「イレーネさんが……結婚? うそだろ……!」
そして頭を抱えて立ち尽くす。
「俺の……いや、ちくしょうーーっ!!」
狼狽から大げさな絶叫へと変わり、広場に響き渡った。
そんな様子を横目に、レヴィは小さく息を吐き、心の中で思う。
(こういう風に思われるんだと思うと、軽い気持ちでノヴァリスの花畑には行けないよな……)
一方のロイはわずかに笑みを滲ませ、淡々とつぶやいた。
「……おめでたい話だな。けど花畑で告白ってだけで、なんでそんなに騒ぐんだ?」
アンは顔をしかめた。
「アンタ、このロマンチックさ、わかってないでしょ?」
「ロマンチック……って、花が咲いてるだけなのに?」
ロイが首をかしげる。
「ああもう! アンタは――」
アンが言いかけたところで、ユームが真顔で口をはさんだ。
「アンちゃん、お兄ちゃんにそんなこと言っても無駄だよ。だってお兄ちゃんなんだから」
「あー、そうね。ロイだもんね。しょうがないか」
アンはため息をつき、肩を落とした。
「……なあ、レヴィ。俺、バカにされてるよな?」
ロイは小声で問いかける。
レヴィは肩をすくめ、淡々と答えた。
「……気のせいじゃないよ」
それでもその声には、どこか楽しげな色がにじんでいた。
そのまま一行は屋台を回り始め、ランタンの光に照らされる村祭りの夜を楽しんだ。
笑い声や呼び声に混じって、ビットの騒ぎ声も加わり、心地よい熱気が夜風に溶けていった。




