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アルスレア  作者: ゆきつき
第一章 灯花祭

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黄金の畑と赤い光

「くっそぉ……なんで俺がドベなんだよ」


膝に手をついて、肩で荒い息をするビット。


「道も知らずに、勝手に走っていったのはビットでしょ」


呆れたように声をかけたのは、この勝負の勝者であるアンだった。


勢いよく飛び出したものの、途中でレヴィに呼び止められるまで間違った道を走り続けたビットとロイ。その隙に、アンが正しい道を走り抜け、見事に一位の座を掴み取ったのだ。


「これを機に、向こう見ずな行動を少しは控えた方がいいんじゃないか?」


二位となったレヴィが、苦笑しながらたしなめた。

ビットはフンと鼻を鳴らすと、その横で涼しい顔をして三位に滑り込んだロイを苦々しく睨みつけた。


「折り返した時には同じくらいだったのに……お前、足だけは本当速いよな」


ロイはその視線を気にする風でもなく、満面の笑みを浮かべた。


「毎朝走っているからね」


「毎日欠かさず走り込みしてますみたいに言うんじゃねーよ!」


「あんたのは遅刻しないためでしょ……」


「毎朝全力ダッシュするくらいなら、ちゃんと起きられるようになった方がいいよ」


「......はい」


三人の遠慮のないダメ出しに、ロイは消え入りそうな返事しかできなかった。


「おーい! お前さんたち。そんなところで騒いでなにをしとるんだ?」


声のした方へ振り返ると、目の前に広がるとうもろこし畑──その、ざざざと揺れる葉の間から、大柄な男がこちらに向かって手を振っていた。


「マリオンさんが戻って来てないって、カイランさんが心配してましたよ。見に行ってくれって頼まれたんです!」


アンがパタパタと手を振り返しながら、大声を張り上げた。


「おお、そうか! すまんすまん」


マリオンは大きな手でガシガシと額の汗を拭い、バツが悪そうに笑った。


「いやぁ、灯花祭の前だからな! 気合を入れて収穫してたら止まらなくなっちまってよ。おかげでこのとおりだ!」


マリオンが誇らしげに胸を張り、指差した先を見て、四人は一斉に目を丸くした。

地面には、刈り取られたとうもろこしが山のように積み上げられていた。


「そ……それ、村まで全部運ぶんですか?」


ロイの引きつった視線に、マリオンは「ガハハ!」と豪快な笑い声を返した。


「そうだ! お前さんたち四人が来てくれて、本当に助かった! 一人じゃ日が暮れても終わらんところだったからな!」


アンは積み上がったとうもろこしを見て、小さく息をのんだ。


「……想像以上に、すごい量……」


「マジかよ……こりゃ腕がもげるやつだ」


ビットは両手で頭を抱え、絶望的な声を上げた。


「たしかに、なかなかの大仕事だね。早く終わらせないと間に合わないな」


レヴィは苦笑しながら、畑へと足を踏み入れた。

それを見たロイは、口元にひそかな笑みを浮かべてそっと一歩下がる。


「まぁ、手分けすればすぐ終わるさ。みんな頑張れー」


「はぁ!?」


すかさずアンの鋭い声が飛んできた。


「なに他人事みたいに言ってんのよ! サボる気満々じゃない!」


容赦のない肘打ちがロイの脇腹にめり込んだ。


「いたぁっ! 冗談! 冗談だって!」


ロイは慌てて両手を上げ、アンから逃げるように畑に駆け込んだ。


「さぁ、若いの! 荷台に積み込んじまおう!」


マリオンが腕をまくり、豪快にとうもろこしを抱え上げた。

ざらりとした葉の手触りと、皮の隙間からのぞく黄金に輝く実のずっしりとした重みが、四人の手にも伝わってきた。


 ◇


ひたすら手を動かし、全てのとうもろこしを荷台に運び終えたころ、陽が傾き畑一面が黄金色に染まり始めていた。


木箱に腰掛けてひと息ついていると、マリオンがふと、目の前に聳える山並みを見上げた。

いつもの底抜けに明るい笑顔が消え、その瞳に真面目な色が混ざった。


「……そういや最近、この辺じゃ見かけない大きな魔物を見たって噂を耳にしてな。夜の山の向こうで、赤い光が揺れてたらしい」


四人は互いに顔を見合わせ、息をのんだ。


「赤い……光?」


アンが隣にいたロイの服の裾を、きゅっと小さく掴んだ。


「ガハハ! どうせ誰かの灯りを見間違えただけだろうよ!」


張りつめた空気を破るように、マリオンが再び豪快に笑った。木箱に腰掛けていたビットの背中をドンと叩く。


「お前さんたちの賑やかな騒ぎ声を聞いたら、魔物のほうが耳を塞いで逃げていくわ!」


「……本当、脅かすのはやめてくださいよ」


レヴィが深く安堵の息をつき、ビットは叩かれた背中をさすりながら、ぶつぶつと文句を零していた。


「いってぇ、なにもそんな強く叩かなくてもいいじゃん……」


隣で強張っていたアンにロイがそっと微笑みかけると、彼女もようやく安心したように、小さく胸を撫で下ろした。


だが、夕陽に照らされるみんなの安心した顔を見つめるロイの胸の奥で、その不安は言葉にできないまま、静かに燻り続けていた。



最後までお読みいただきありがとうございます!

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