王都への道すがら
フルーヴェルを出てしばらくすると、背後の喧騒はゆっくりと遠ざかり、代わりに風が草を撫でる音と、木々の間を渡る鳥の囀りが静かに広がっていった。
ミーオはロイの頭を離れ、枝葉の間を器用に飛び回っていた。葉陰へ身を隠しては枝から枝へと軽やかに移り、時折ぱた、と小さく羽を鳴らす。
石畳は途切れることなく続き、街道は変わらず木々に挟まれたまま緩やかに先へと伸びている。
街道の先には、王都へ向かう者やフルーヴェルへ戻る者の姿がぽつぽつと見える。荷を背負った商人らしき男や、荷車を引く一団がゆっくりと進み、すれ違う者たちは軽く会釈を交わし、静かに通り過ぎていく。
ロイは空を見上げ、大きく息を吐く。
「ここから王都まであとどのくらいかかるんだっけ?」
前を歩くサグロスは、振り返りもせずに軽く答えた。
「四、五日ってところだな」
「まだまだ遠いなぁ……」
思わず漏れた弱音に、隣を歩くライナがこちらを見て口を開いた。
「ここから先はなだらかな丘陵地帯が続いているって聞いたけど。水源も多いし、食料にも困らない。四、五日歩くだけなら簡単でしょ?」
あまりにも当然のように言われて、ロイは一瞬言葉に詰まり、目を伏せる。
「……ごめん。甘えたこと言って……」
「さっすが砂漠の民。サバイバル慣れしてるな」
前方から飛んできた軽口に、ライナの眉がぴくりと動いた。
「バカにしてる?」
「いちいち突っかかるなよ。逞しいって思っただけだ」
ライナは小さく鼻を鳴らし、それ以上は何も返さなかった。
「まぁ、ロイくんの言うことも一理あるな」
「えっ? サグロスわかってくれるの?」
ロイは思わず顔を上げた。
「フルーヴェルじゃ結局ゆっくりなんてできなかったからな。さすがに疲れも溜まってきた」
その言葉に、ロイは何度も頷く。確かに、あの街でも結局ゆっくり休めた気はしなかった。
だがライナはきっぱりと言い切った。
「そんなことを言っても、王都へ行くにはこのまま街道を歩いて行くしかないでしょ」
「それがそういうわけでもないんだなー」
気の抜けた声だった。
ロイとライナが同時に怪訝そうな顔をする。
サグロスは足を止めることなく、ヒラヒラと片手を振る。
「俺たちは街の安泰に貢献したわけだ。ご褒美があってもいいじゃん」
「もったいぶってないでさっさと吐きなさいよ」
ライナの苛立った声にも、サグロスは笑みを崩さない。
「焦るなって。このまま進めばわかる」
「どういうこと?」
ロイが首をかしげる。
「何を企んでいるの?」
ライナの視線は鋭い。
「ほら、さっさと行くぞー」
サグロスはそれだけ言うと、歩調を崩さず先へ進んでいく。
ロイは困ったように頭を掻き、ライナを見る。
「……なにかあるのかな?」
「さぁ?」
ライナはサグロスから視線を外さないまま、そっけなく答えた。
前を行く男の足取りは妙に軽い。どこか楽しげで、それがかえって引っかかった。
ロイとライナは小さくため息をつき、その背中を追った。
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