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アルスレア  作者: ゆきつき
第五章 フルーヴェル

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揺らぐ光

大通りには、いくつかの店にまだ灯りがともり、人影がまばらに行き交っているのが見えた。

だが、そんな人の気配も坂を登るにつれ遠ざかっていく。

ランタンに照らされた坂道は静まり返り、石畳を踏む足音だけが響いていた。


手を後ろで縛られたまま、ロイとサグロスは坂道を進まされていた。歩くたび、縄が手首に食い込んで痛んだ。

さっきまで袋の中で暴れていたミーオも、いつの間にかおとなしくなっていた。かすかに、もぞりと動く気配だけが伝わってくる。


わずかに歪んだ手すりの横を通り過ぎ、坂の上にたどり着いた。

そこには高い塀と重厚な鉄門があり、その奥に石造りの屋敷が堂々と構えていた。


門番が一瞥した。

深夜の静寂を切り裂くように、鉄の門が軋みを上げて開き、ロイとサグロスはそのまま敷地の中へ押し込まれた。

淡い灯りに照らされた庭を横切り、屋敷の玄関へ。


中に入った瞬間、空気が変わった。


広い廊下には上質な絨毯が敷き詰められ、壁には燭台が並び、蝋燭の灯りがゆらゆらと揺れていた。

揺れる灯りに合わせて、廊下に落ちる影が伸び縮みする中、二人は背中を押されながら歩かされていく。


「おい、もう少し優しく扱えねえのかよ……」


サグロスが毒づく。

背後の男はニヤニヤしながら、奪い取ったサグロスの腰袋でその背を乱暴に打ちつけた。


ロイは思わず拳を握る。

前を歩く男の手の中には、アルスレアとサグロスのコルディアがまとめて握られていた。


やがて、廊下の奥に大きな扉が見えてきた。

それが押し開かれた瞬間、天井の高い広大な空間が視界に広がった。


壁には絵画が並んでおり、床には深い赤の絨毯が奥まで伸びていた。

天井の吊り燭台で灯された蝋燭がゆらりと揺れ、絵画の額縁に柔らかな光を落としていた。


その先――

一段高い場所に、重厚な椅子。そこに、男はいた。


「よぉ旦那、捕まえたぜ」


前を歩く男の声が響く。

次の瞬間、ロイとサグロスは床へと突き飛ばされ、そのまま背中を押さえつけられた。


「面をあげよ」


ゆるやかな声が、謁見の間に落ちた。

二人は押さえつけられたまま、顔だけを上げる。


椅子に身を沈めた若い男が、顎をわずかに上げ、こちらを見下ろしていた。

整った顔立ち。

落ち着いた目つき。

仕立ての良い衣をまとった体はゆったりと大きく、椅子の肘掛けに置かれた腕も太い。白い指には大きな宝石の指輪が光っていた。


サグロスが鼻で息を吐く。


「グランヴァル男爵のご子息様が、俺たちに何の用ですかね?」


「口を慎め」


低い声が、静かに響いた。


「誰に向かって口を利いている。身の程を弁えろ」


サグロスは何も言わず、男を見据えた。


「我が名はエルディオ・グランヴァル」


ゆったりと椅子にもたれかかりながら、男は言う。

「父上は今、王都にて多忙。ゆえに不在の間、この地の統治は我が預かっている」


サグロスは、ほんのわずかに眉を上げた。

(男爵らしくないやり方だと思ったが……そういうことか)


エルディオは言葉を続けた。


「立ち入りを禁じられたラグノアの森への侵入。そして――北の地で発見された後、行方が知れなくなった英雄の武具」


視線が、二人の間をゆっくりと移る。


「それを貴様らが所持しているという事実。すなわち、武具の窃盗の疑い」


指先で、肘掛けをとん、と叩く。


「加えて、我が街の往来にてコルディアを用いた無断戦闘。その結果、街に混乱を招いた。そして数日前――沖で発生した大波。あれで旅船や漁船も被害を受けたと聞く」


エルディオは鼻で笑った。

「……偶然とは思えぬな」


その目が、冷たく細められた。


「――貴様らには、その罪に相応しい裁きを下す」


パチン、と指が鳴らされる。

「その者らのコルディアをよこせ」


二人の前にいた男が、アルスレアとサグロスのコルディアを差し出した。


エルディオはまずサグロスのものへ視線を落とした。

指先でつまみ上げ――ふん、と鼻を鳴らすと、そのまま床へ放り捨てた。


ガシャッ。

乾いた音が、広い謁見の間に響く。

サグロスの目が、わずかに細くなった。


エルディオは床に転がったコルディアには一瞥もくれず、視線をアルスレアへ向けた。


「素晴らしい……これが、かの英雄オルセリアの武具か」


アルスレアをゆっくりと拾い上げる。

「……おお。実に美しい」


ゆらりと揺れる七色の輝きに、目を見開いた。

「こんな輝きは見たことがない」


周囲へ見せつけるように、アルスレアを高く掲げる。


「はははは! 見よ! この七色の輝きを!」


高らかな笑い声が、謁見の間に響いた。

「ようやく――」


その瞳が爛々と輝き、喜びに口元が歪んだ。

「正当な使用者である我の元に来た!」


だが、その瞬間――。

ロイの胸に、ぞくりとした違和感が走った。


(……あれ?)


さっきまで胸の奥に流れ込んでいた、あの温もりが、冷たく変わっている。

光が、薄い。呼吸が、合わない。胸の奥がざわざわと騒ぐ。


嫌な感じだ。言葉にならない、拒絶の気配。


――アルスレアが、拒んでいる。


ロイの喉が、ごくりと鳴る。


エルディオは気づいていない。ただ、うっとりとした表情で手の中のアルスレアを見つめている。


静まり返った謁見の間で。

七色の輝きが――わずかに、歪んだ。

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