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アルスレア  作者: ゆきつき
第四章 ラグノアの森

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暗闇を抜け、人の灯へ


森の中を進み続け――

辺りが次第に暗くなり、木々の隙間から差し込んでいた夕暮れの光も、ほとんど失われかけていた頃。


三人は、あと少しで森を抜けられそうなところまで辿り着いていた。


――だが。

視界の先には、森には似つかわしくない光があった。


「……?」


思わず足を止めた、その瞬間だった。


レイドに肩口を掴まれ、木の影へと引かれた。

無言のまま、前方を指し示される。


改めて目を凝らすと、踏み固められた地面が広がっていた。


――そのさらに奥に。


「……え? なんで、こんなものが……」


たいまつの明かりに照らされ、ひときわ存在感を放つ重厚な正門があった。

その脇には、小さな扉が設けられている。


――そして、その門を起点にするように。


分厚い石造りの壁が、左右へと長く伸びていた。


基礎は重く、簡単には崩れそうもない。


壁の上部には、侵入を拒むように鉄製の柵が巡らされている。

さらに、一定の間隔で壁から突き出す見張り塔が建っていた。


塔の上では、たいまつの明かりが揺れ、人影が森側を向いたまま動かずに立っている。


「ラグノアの森は立ち入り禁止区域だ」


静かに言ったのはレイドだった。


「許可証がなければ、入ることすらできん」


「えっ!? 俺、そんなの持ってないですよ!」


「安心しろ」


すぐ後ろで、サグロスが肩をすくめた。


「俺らも持ってねー」


「……えっ?」


嫌な予感が背中を駆け上がった。


「それって……不法侵入?」


「そういうことになるな」


サグロスは、口の端を歪めて小さく笑った。


――一緒に行く人、間違えたかな。


ロイが内心でそう呟いた、その時だった。


「……入った時よりも、警備が強化されているな」


レイドが塔の上を見上げた。

見張りの人数は明らかに多く、塔ごとの配置も隙がなかった。


「侵入したのがバレたか?」


サグロスが低く言う。


「それなら、もっと早く追ってくる」


レイドは首を振った。


「……森からの“何か”を警戒しているようだな」


「俺たちのせいか?」


「……少々、派手にやりすぎたかもしれんな」


短い沈黙が落ちた。

サグロスが口の端を吊り上げる。


「どうやって見張りの目をそらそうかね……」


ふと、ロイの頭にしがみつくミーオに目が留まった。


「……」


「……なら、ここは俺が囮になって――」


レイドが言いかけた、その言葉を遮るように。


「なぁ、チビ助」


サグロスがミーオに声をかけた。


ミーオは耳をぴくっとさせてから、後ろを振り返った。


「きゅっ?」


「ここはひとつ、囮役を買ってくれねーか?」


「えっ!? ミーオにやらせるんですか!?」


ロイが思わず声を上げた。


「しっ。声がでけぇ」


慌てて口を押さえるロイを横目に、レイドが眉をひそめる。


「さすがに無理だろ」


「いいや」


サグロスはミーオをじっと見つめた。


「こいつ、チビのくせになかなか賢い。ちゃんと説明すりゃ理解はできるんじゃねーか?」


レイドとロイの視線が、同時にミーオへ向いた。


「どうだ?」


サグロスが問う。


「やってくれるか?」


「ぴゃ!!」


ミーオは羽をぱたぱたと鳴らし、勢いよく返事をした。


「よし。その意気だ」


サグロスは腰袋から、見覚えのある小さな木片を取り出した。


「この灯りを持って、まず壁の向こうで飛び回れ。合図があったら森の上空へ戻るんだ。灯りが消えたら、もう一度壁を越えて俺たちのところへ来い。いいな?」

ミーオは小さく頷いた。


「合図は、この花だ」


そう言ってサグロスは、ミーオが前脚で抱えていた花を取った。


「ぴゅっ!」


サグロスは一瞬だけ夜空を見上げた。


夜空には雲が広がり、月は薄くにじんだ光を落とすだけになっていた。


木片に、ふっと淡い光が灯った。


ミーオはそれを受け取ると、ロイの頭上から勢いよく夜空へと舞い上がった。


雲が月を覆い、夜空に残ったのはミーオの持つ灯りだけだった。


「何か空で光っているぞ!!」


「魔物か!?」


塔の上が一気に騒がしくなった。


森の上空を漂っていた光が、ふっと軌道を変え、壁を越えて外側へ流れていった。


「壁を越えたぞ!」


「見失うな!」


見張りたちの影は、光を追うように塔の縁から消えていった。


「……今だ」


サグロスが低く言った。


三人は息を殺し、見張りの注意が外れているその隙に、たいまつに照らされた門へと一気に近づき、正門脇の小さな扉へと身を寄せた。


上から、見張りの声と足音が落ちてくる。


ロイは視線を上げたまま、身じろぎもできなかった。


かすかな金属音が響いた。


――カシャン。


すると、小さな扉が軋む音を立て、ゆっくりと内側へ開いた。


隙間から流れ込んできたのは、外気とは異なる澱んだ冷たさだった。


中には、人の気配があった。


わずかな灯りもあり、その光はこの場所が使われていることを静かに告げていた。


「お前って、こういうのほんと得意だよな」


サグロスは声を潜め、満足そうに笑った。


「……無駄口叩くな。さっさと抜けるぞ」


レイドはそれだけ告げ、迷いなく先へ進んだ。


狭い通路を進む途中、上へと続く階段が口を開けていた。


そこから、塔の上で上がったらしい怒号と足音が、くぐもって伝わってきた。


三人は息を殺し、奥の扉の前に並んだ。


レイドが僅かに隙間を作った。

外には人影はない。

騒ぎはまだ、上に集まっている。


レイドは短く息を吐き、サグロスから花を受け取ると、扉の外へ静かに投げた。


ほどなくして、夜空を漂っていた淡い光が森の方へ流れていく。

すぐさま、塔の上で声が上がり、足音が駆けていった。


「今のうちだ。身を隠せるところまで一気に行くぞ」


「わかりました」


「オーケイ」


短く言葉を交わすと、扉から外へと飛び出した。


三人は素早く木々の影の中へと身を滑り込ませた。


「うまくいったな」

「そうだな」


ロイは不安げに夜空を見上げた。


月が雲間から顔を出した、その時。

ふわりと、柔らかな気配が降り立った。


「上出来だ、チビ助」


「ぴゃっ!」


ミーオは胸を張り、誇らしげだった。


「ありがとう。助かったよ」


ロイが頭を撫でると、ミーオは嬉しそうに擦り寄ってきた。


「……大したものだ」


レイドはそう言って、静かに頷いた。


「このまま人目を忍んで、街道まで出るぞ」


二人は無言で頷いた。


――


三人と一匹は、月明かりを避けるように木々の間を縫い、やがて、街道近くの茂みにたどり着いた。


灯り。人の声。馬車の音。


闇の中を進んできたロイの目には、それらすべてが眩しく映った。


「……人が、いっぱいいる」


「主要な街道だ」


サグロスは行き交う人影に目を向け、短く言った。


「当たり前だろ」


「やっと……人がいるところに、辿り着けた……」


その呟きに、レイドは一瞬だけ視線を落とした。

サグロスも何も言わず、街道の先を見据えた。


「お前たちは、このままフルーヴェルへ向かえ」


レイドが言った。


「王都へ行くなら、そこを通るのがいい」


「レイドさんは?」


「俺は反対側だ。依頼人に報告がある」


レイドは、ミーオの頭を撫でた。


「達者でな」


「ぴゃっ!」


「ありがとうございました!」


レイドは振り返らず、片手を軽く上げただけで、街道の灯りの中へ消えていった。


「さあて」


サグロスが大きく伸びをした。


「コソコソするのは終わりだ。堂々と、明るいところを歩こうぜ」


「……はい!」


闇に沈む森を背に。


ロイは、ようやく文明の光の中へと足を踏み出した。


第四章「ラグノアの森」を読んでいただき、ありがとうございました。


ロイにとっては、森を抜けてようやく“人の世界”に戻ってきたところになります。


この話で、第四章は完結となります。


次章から舞台は街へ。

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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