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アルスレア  作者: ゆきつき
第四章 ラグノアの森

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幼児と被害者


ロイが目を覚ましたとき、まず目に入ったのは――

限界まで不機嫌そうなサグロスの顔だった。


「よ・う・や・く起きたか、寝坊助野郎っ」


ゆらり、とサグロスが立ち上がる。


「っ!?」


反射的に跳ね起き、ロイは周囲を見回した。

夜の闇はすっかり消え去り、木々の隙間から差し込む光はすでに強い。

朝のひんやりした空気というより、昼に近い生温かさが森を満たしていた。


「おっ、おはよう……ございます」


「おはようじゃねーわ! とっくに昼時だ!!」


サグロスは近づくと、ロイの額を小突きながら文句を言った。


「ご、ごめんなさいっ!」


二人が小さく揉めていると、外で草を踏む音がした。

顔を覗かせたのはレイドだった。


その肩には、ミーオがちょこんと乗っている。

前脚には、森で拾ったらしい果実を大事そうに抱え込んでいた。


「何を仲良く騒いでいる?」


「仲良くねーわ!!」


「お、おはようございます……」


ロイの声は、少しだけ小さかった。


レイドは二人を一瞥し、淡々と告げる。


「よく眠れたようだな。腹ごしらえをしたら、すぐに出るぞ」


「……はい」


ロイはしゅんと頷いた。



三人は、森で見つけた安全な食べ物を軽く口にすることにした。

乾いた木の実、甘酸っぱい果実。どれも素朴な味だ。


その中で、サグロスだけが一瞬、視線を留めた。

口角が、わずかに吊り上がる。


「なあ」


「はい?」


「これ、食ってみろよ。うまいぜ?」


差し出された鮮やかな黄色い果実を、ロイは疑いもなく受け取った。


「ありがとうございます」


そして、ぱくりと口にする。


「……本当だ。これ、すごく美味しいぴょん」


「……」


沈黙が落ちた。


(……ぴょん?)


ロイは今しがた口をついた言葉に、妙な違和感を覚えた。


「……なんだこれぴょん」


レイドの視線が、ゆっくりとサグロスに向いた。

無言のまま、ロイが食べた果実を確認する。


「……サグロス」


「……っぶ、はははは!」


堪えきれず、サグロスが腹を抱えて笑い出した。


「さっき、チビドラゴンが持ってたやつだよっ」


「ひっ、ひどいぴょん!」


ロイは叫んだ直後、はっとして両手で口を押さえた。


レイドは溜息をひとつついた。


「命に関わる毒ではない。少ししたら、効果もなくなるだろう」


そう言って、立ち上がる。


「……さあ、行くぞ」


笑い転げるサグロス。

耳まで真っ赤に染まり、俯くロイ。


そしてミーオはサグロスの前に立ち、毛を逆立てて小さく唸っていた。口の奥にはちろりと小さな火が灯っていた。



三人と一匹は、森の外れを目指して歩き出した。

歩みを進めるうちに、葉越しに落ちる光が斜めに差し込むようになっていた。


道すがらサグロスは目につくものを次々と手に取っていった。

足元に落ちていた枝や木の実を拾い上げ、茂みから突き出ていた花をもぎ取り、草も気が向くままに引き抜いていく。


「人がいないせいで、宝の山だな!!」


ミーオもそれを真似るように、花や石を前脚で掴んでは持ち歩く。

サグロスのそばには近づかず、振り回したり転がしたりしながら楽しんでいた。


少し離れたところから、その様子を眺める二人。


「……幼児だろ?」


「……はい」


ロイは遠い目をしながら小さく頷いた。


すると、ミーオが近くの木へと軽やかに飛び移った。

枝先に実る、青紫の果実――


「おいっ! それはソポルの実だぞ!」


だがミーオは気にした様子もなく、皮ごとがぶりとかじる。

種だけを器用に残しながら、一個、二個と平らげていった。


サグロスは、その光景を前に言葉を失った。


「……」


「俺が食べたときも、こんな感じでしたよ」


ロイはサグロスに歩み寄り、そう声をかけた。


それを見て、レイドも近づいてきた。


「ドラゴンにとっては、ソポルの実はただの果実……なのか?」


食べ終えたミーオは、ぴょんとロイの腕に飛び込むと――


「げぷっ」


大きなゲップを一つして、そのまま丸くなって目を閉じた。

小さな体がゆっくり上下し、安らかな寝息が漏れ始めた。


三人は、眠り込んだミーオをしばらく無言で見つめていた。


「ソポルの実のせい……ですか?」


「いや……満腹で眠くなっただけのように見えるが……」


レイドが低く言った。


それまで黙っていたサグロスが、ふいに視線をロイへ向けた。


「いいか」


その声は妙に静かだった。


「今後、このチビドラゴンが食ってるもんを“安全”だと思って、絶対に食うな。いいな?」


「……そうですね」


ロイは、素直に頷いた。


森は、人の騒ぎなど意に介さぬ様子で、静まり返っていた。


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