夜明け前の内緒話
サグロスはふと目を覚ました。
木にもたれていた背中の感触と、ひんやりとした森の空気に意識が引き戻される。
目を覆うように下ろしていたヘアバンドをゆっくり持ち上げ、周囲を確かめると、まだ辺りは薄暗く、地面に置いた灯りはすでに消えていた。
月明かりだけが、木々の隙間から中に差し込んでいる。
揺れる影が、呼吸するように木の幹をなぞった。
横から、少しくぐもった寝息が聞こえてくる。
視線を向けると、地面に寝転がるロイの頭に、ミーオが体を伸ばして覆いかぶさるようにしていた。
小さな体がぴたりと密着し、まるでお気に入りの場所を確保しているかのようだ。
ロイはその重みのせいか、わずかに顔をしかめている。
だが目を覚ます様子はなく、結局そのまま眠り続けていた。
サグロスはその様子を横目に見ながら、幹の外で森に目を向けるレイドのもとへ歩み寄った。
「見張りは、あいつが最初にやったのか?」
声を潜めて問いかけると、レイドは視線だけをこちらに向けた。
「いや。熟睡しているから、そのまま寝かせている。相当疲れていたようだ」
「甘いなー。叩き起こせばいいのに」
軽く言ってみせるサグロスに、レイドはすぐには返さなかった。
その沈黙を受け、サグロスは腰を下ろすと、後ろに手をついて空を仰いだ。
レイドは静かに口を開いた。
「……話からするに、半月ほど前までは、ただの子供として過ごしていたんだ」
少し間を置き、声を落として続ける。
「その後に、魔物との戦闘、漂流、危険な森に迷い込むなどしていたら、だいぶ疲れも溜まるだろう」
「そうは言ってもな」
サグロスは空を仰いだまま鼻で笑った。
「あいつが自分で選んだことだ。甘やかすべきじゃねぇと思うけど」
レイドは何も言わず、再び森へ視線を戻した。
少しの沈黙の後、サグロスが口を開く。
「魔物との戦闘で後回しになっちまったが……あの村で、依頼の物は見つかったか?」
「こちらは何も」
レイドは即座に答える。
「そちらはどうだった?」
「こっちも何もなし。見つかったのは、あのチビドラゴンだけだ」
サグロスは小さく息を吐いた。
「無駄足だったな」
「……お前は、あの村についてどう見ている?」
レイドが問いかける。
「噂通りだったか?」
サグロスは片膝を立て、そこに顔を預けるようにして少し考えた。
「噂通りに見えなくもないが……違和感もあったな」
言葉を選ぶように続ける。
「白でも黒でもなく、グレーって感じだ」
「俺も同じような意見だ」
レイドは小さく頷いた。
「そう伝えておく」
「頼むぜ」
二人の会話がそこで途切れる。
耳を澄ますと、森の奥から微かな葉ずれの音と、夜行性の虫の羽音が重なって聞こえてきた。
月明かりに照らされた空洞の中で、時間だけがゆっくりと流れていく。
夜の森の音だけが、その場を静かに満たしていた。




