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アルスレア  作者: ゆきつき
第一章 灯花祭

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ー9ー 夜の果てに光は生まれる

次の瞬間、耳と目に飛び込んできたのは、広場の一角で起きている混乱だった。


魔物が爪を振るい、村人を押しのけながら屋台を薙ぎ払った。崩れた木板や布地が広場に散らばり、火の粉が舞い上がる。

悲鳴や怒号が交錯し、人々は互いにぶつかりながらよろめき、必死に逃げ惑った。


そのざわめきの渦の中で、鮮やかに目に飛び込んできたのは――長衣の裾が足に絡まり、石畳に倒れ込むイレーネだった。


「イレーネさん!」

ビットが叫び、砂埃を蹴って駆け寄る。


「アン! ユームを頼む!」

ロイも振り返りざまに叫び、ビットの背を追った。


「二人とも、無茶だ!」

レヴィは顔を引きつらせながらも、二人を放っておけず駆け出した。


――イレーネのもとへ駆け寄った二人。

「大丈夫ですか!」

「急いで、こっちへ!」

ロイとビットが手を伸ばす。


「……あ、ありがとう」

イレーネは震える声で答え、必死に立ち上がろうとする。


その刹那、広場の空気が震えた。

魔物が村の男たちをまとめて吹き飛ばし、唸り声を上げて飛び出してきたのだ。

その赤い目は、イレーネと駆け寄った少年たちを射抜いていた。


「くっ!」

レヴィが三人の前に躍り出て、近くに転がっていた倒れた屋台の板を掴み、盾のように構える。


だが、魔物の一撃はあまりにも重く、空気を裂く衝撃が響き、レヴィの体は宙に浮いた。

そのままロイたちにぶつかり、四人まとめて地面に叩きつけられる。


その衝撃で、イレーネの胸元から首飾りが弾け飛び、石畳に叩きつけられて砕け散った。


琥珀色の水晶が石畳を転がり、ロイの脇をかすめて淡い光を瞬かせる。

それを見たのは、ユームだけだった。


「……!」

「ユーム! ダメ!」

アンの手を振りほどき、ユームは恐怖を押し殺して駆け寄る。


両手で抱きしめるように、琥珀色の水晶を拾い上げた。


正面には魔物が迫っていた。

鋭い爪が振り下ろされる刹那――


「ユーム!!」

ロイは迷わず飛び込んだ。


爪が彼の肩を裂き、血が飛び散る。

それでもロイはユームを腕に抱き込み、地面を転がった。


「……っ……!」

痛みで声にならない呻きだけが漏れ、言葉は出ない。


立ち上がろうとする。だが、足に力が入らず膝をついた。

「お兄ちゃん……」

ユームが震える声で呼びかける。ロイは顔を上げられず、苦しげに息を漏らすだけだった。


霞む視界の先で、なお迫りくる魔物の姿。

もう無理だ――そう思ったその時。


ロイは震えるユームの手を掴んだ。

その掌にはちぎれた祭具の残骸――琥珀色の水晶が握られている。


澄んだ音と共に、水晶が砕け散った。

あふれ出した光は、夜の広場を昼に変えるほど眩しく、空をも揺らす。


まるで世界が深い眠りから目覚めたかのように、大気そのものが震え広がった。


村人たちはただ「胸を打つ強い風」が駆け抜けたとしか思わなかった。

だが、その衝撃は確かに遠く離れた場所にまで届いていた――海の向こうで、誰かがそれを感じ取り、動き始めようとしていた。


――


ロイの目の前には、砕けた水晶の中から現れた小さな装飾品のようなものが光をまとって浮かんでいた。


魔物が唸り声をあげ、眩い光を押しのけるように再び突進する。


咄嗟にロイは手を伸ばした。

指先が触れた瞬間、透明な響きとともに光の粒子が集まり、ひとつの形を象りはじめた。


気づけば、その手には――

剣のような輪郭をした“光”が握られていた。

形そのものはたしかに剣だ。だが、表面は眩い膜に包まれ、刃も鍔も光の揺らぎに溶けて細部が見えない。


その光の奔流が弧を描き、迫る魔物を貫いた。


咆哮が絶叫に変わり、巨体が崩れ落ちる。


静寂。


光の“剣”の先端から滴る粒が石畳に散り、崩れた屋台や散らばった花飾りを淡く照らす。

ロイはその“剣の形をした光”を握ったまま、呆然とその光景を見上げていた。


やがて緊張の糸がぷつりと切れる。

膝が崩れ、呼吸も途切れ、ロイの体は力を失った。

視界が暗転する中、誰かの叫ぶ声だけが遠くで響いていた。

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