光舞う夜と赤い影
寸劇が終わると、観客から大きな拍手が広場に響き渡った。
小さな役者たちは嬉しそうに手を振りながら、舞台を降りていく。
「ユーム、こっちだ! すごく上手だったぞ!」
人混みをかき分け、小走りで戻ってくる妹の姿を見つけ、ロイは真っ先に手を振って声をかけた。
「うん、堂々としていて格好よかったよ」
アンも優しく微笑みながら言葉を添えると、ユームは二人に褒められて照れくさそうに頬を赤らめた。
その微笑ましいやり取りを、レヴィやビットも温かい笑みを浮かべて見守っていた。
◇
やがて舞台に村長が姿を現すと、広場を包んでいた賑やかなざわめきが、波が引くように静まり返った。そのすぐ後ろからは、重厚な木箱を抱えたカイランが続く。
さらに舞台袖から、白と銀の長衣をまとったイレーネが歩み出てきた。
衣にあしらわれた鈴や水晶の飾りが光を反射し、彼女が一歩踏み出すたびに、涼やかな音を響かせた。
村長がカイランの持つ木箱の蓋をゆっくりと開いた。
青みを帯びた古びた銀の縁に、琥珀色の水晶や小さな宝石をあしらった半月形の首飾り――村に代々伝わる祭具だ。
ランタンの灯りを浴びて妖しくも美しく煌めくその姿に、客席からは一斉に息を呑む音が漏れた。
普段は決して誰の手にも触れさせないそれを、村長は厳かに取り出し、イレーネの首へかけた。
イレーネは胸元でそっと両手を握ると、深く息を吸って静かに舞い始めた。
裾の布は夜風にふわりと揺れ、銀糸の刺繍が淡く煌めく。
彼女の動きに合わせ、鈴が、水晶が、澄んだ音色を奏でた。
胸元の半月がゆらりと揺れるたび、小さな宝石が星のように青白く瞬く。
下に垂れた雫型の水晶は灯りを受け、小さな虹を描く。
白と銀の衣装、そして祭具の光と音が一体になるにつれ、広場は神秘的な空気に包まれた。
子どもたちは互いに寄り添って息を詰め、大人たちもその美しい光景から目を離せず、ただじっと見つめていた。
伝承で語られる神話が、自分たちのすぐ近くで息づいている――人々は灯花祭を迎えるたび、その事実を肌で実感していた。
舞は続き、衣装の裾や袖、祭具の光が広場に漂い、夜の空気の中に静かな祝祭の気配を満たしていった。
――その時。
地を這うような、低い唸り声が森の奥から響いた。
ズズ……、と足元がかすかに震える。
広場にいた人々は顔を見合わせ、困惑したようにざわめき始めた。
「……な、なに……?」
ユームが小さく眉をひそめ、不安げにロイに身を寄せた。
バサバサバサッ! と鳥が一斉に飛び立つ。
ざわざわと揺れる森の不穏な気配に、人々の胸にじわじわと嫌な予感が広がっていった。
やがて、闇を押し分けるように、森の縁から巨大な影がにじり出てきた。
黒くねじれた角、赤黒い鱗に覆われた体、そして頭部に宿る鋭い赤い眼光――
噂でしか聞かなかった“魔物”が、いま目の前に姿を現したのだ。
広場のざわめきが、一瞬で凍りついた。
全員の呼吸が止まり、恐怖に縫いとめられたように、誰一人として動けない。
張り詰めた静寂を裂くように、村長が声を張り上げた。
「子どもたちを守るんじゃ! 男ども、魔物を止めろ!」
その怒号で、人々は我に返ったように慌てて動き出した。
子どもを抱えた母親たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、男たちは恐怖に顔を引きつらせながらも、広場の隅に積まれていた木箱を投げつけ、設営用の頑丈な木材を力強く握りしめ、魔物へと向かっていく。
「逃げよう! 早く!」
ロイはユームの手を強くつかみ、声を張り上げた。
だが、ユームは目の前に現れた魔物に釘付けになり、体が震えて一歩も動けない。
「うわあああ! あの話、嘘じゃなかったのかよぉ!」
ビットが顔を引きつらせ、後ずさりながら叫ぶ。
アンは唇を噛みしめつつも、立ちすくむユームの背を押した。
「ユーム、走って!」
「こっちだ!」
レヴィは蒼白な顔で広場の端を指さし、必死に声を上げた。
五人は駆け出し、荒い息の合間に魔物を振り返る。
――赤い眼光は、逃げ惑う群衆を確実に捉えていた。
こうして、祭りの夜の平穏は、突如として訪れた恐怖によって打ち砕かれた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「ロイたちの冒険を応援したい」と思ってくださったら、ページ下部から【ブックマーク登録】や【★★★★★(評価・応援)】をいただけると、執筆の大きな励みになります!
どうぞよろしくお願いいたします!




