運命との邂逅
――世界は揺らめき、色が溶け合っていた。
赤や青、白や金が混ざり、どこからともなく光が滴る。ここがどこなのか、わからない。
ただ、何かが――戦っていた。
大地が裂け、空が泣く。炎のような光、砕けた刃、黒い波。
誰かの叫びが耳の奥で響く。それは祈りか、それとも絶望か――
ひとつの影が見えた。白く輝く何かを握りしめ、巨大な影に立ち向かっている。
その姿は滲み、見ようとするほど遠ざかる。
そして――巨大な影の奥に“目”があった。
形も、色も、距離さえも分からない。けれど確かに、それはロイを見ていた。
視線が交わった瞬間、心臓を掴まれるような痛みが走った。
冷たいのか、熱いのかも分からない。ただ、何かが――こちらを覗いていた。
これは夢なのか。記憶なのか。それとも――誰かの中に残された断片か。
◇
ロイは息を呑み、目を開けた。
……見慣れた天井ではない。
木の梁と石造りの壁。小さな窓から差し込む光が、白い布に淡く揺れている。
ここは――村の診療所か。
夢の内容は、指の間から零れ落ちるように薄れていった。
けれど胸の奥には、あの“目”の感覚だけが重く残っている。
見られていた――そんな確信だけが、現実のように息づいていた。
ロイは小さく息を吐き、ゆっくりと体を起こした。
「目が覚めましたか?」
不意に、柔らかな声が耳を打つ。
「!?」
ロイは反射的に声のした方に顔を向けた。
ベッドのそばには、淡い緑の髪の少女が座っていた。
軍服のような服を着ているが、年は自分とそう変わらないように見える。
陽の光を受けたその髪が、かすかに輝きを散らしていた。
「肩の痛みは、まだありますか?」
「……肩?」
ロイはぼんやりと呟く。
最初は何のことか分からなかったが、次第に記憶の断片が浮かび上がる。
祭りの夜。叫び声。魔物――そして。
「妹……と、村のみんなは!?」
ベッドがぎしっと軋む。
少女は穏やかに言葉を続けた。
「その様子なら問題なさそうですね。村の方々は軽傷の方が多く、今は元気にされています。あなたの傷が一番ひどかったですよ」
「……そうですか。よかった」
胸の奥で、何かがふっと緩んだ。
安堵とも、まだ抜けない恐怖ともつかない感情。
そのまま数秒、ロイは静かに息を整えた。
改めて少女に目を向ける。
整った顔立ち、凛とした瞳、どこか大人びた雰囲気。
けれどその表情の奥には、淡い翳りが差していた。
「えっと……あの、どちら様ですか?」
少女は一瞬まばたきをし、わずかに姿勢を正した。
その動きに、訓練された兵の気配がある。
「申し遅れました。私はミネア・ティレニス。王都直属の第二観測隊に所属しています」
「……観測隊?」
聞き慣れない言葉に、ロイは思わず首をかしげる。
「我々は王命により、“太古の武器”と呼ばれる存在を探すため、世界各地の調査を続けています。
二日前、北方海域を航行していた際、フレイヴ山脈の方角から“莫大な魔力反応”を感知しました。反応を追跡した結果、発生源はこの村であると判明しました」
ミネアの声は穏やかで、よく通る。
だがその瞳の奥には、揺るがぬ覚悟が宿っていた。
「ロイ・ウェールグ――」
彼女は静かに言葉を区切り、真っすぐ彼を見た。
「あなたは、“太古の武器――アルスレア――”に選ばれた者です。
どうか、我々と共に来ていただけませんか?」
「え……えっと……?」
ロイは思考を止めた。
まだ夢と現実の境目がぼんやりと霞む頭では、
“選ばれた”という言葉の意味を、まだ理解できなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「ロイたちの冒険を応援したい」と思ってくださったら、ページ下部から【ブックマーク登録】や【★★★★★(評価・応援)】をいただけると、執筆の大きな励みになります!
どうぞよろしくお願いいたします!




