34話 襲撃③
左腕から着地する。
二の腕に激痛が走った。
「ぐっ!」
「いつまでスタミナが持ちますかねぇ」
ナインは両手で複数の結晶魔石を投擲していく。
――――パチパチパチパチン。
再び爆風に乗った火炎がエルを包んだ。
「どんだけ魔石持ってるんだよテメェ!」
何とか体制を立て直し両の腕から水魔法を放つエル。
しかしほとんど相殺できない。炎がエルの体を踊り、服と肌を焼き焦がしていった。
「あっちいな畜生・・・」
エルの体は既に、いくつもの火傷ができている。さっきのでおそらく左腕も折れた。
先ほどから風と炎の波状攻撃を何度も食らい、体力も限界を迎えようとしていた。
このままじゃマズい・・・
気を抜いた瞬間、一気に殺られる・・・ッ!
「これで五万は超えましたかねー。なかなかしぶとい」
「へっ・・・随分効率の悪い戦い方するじゃないか、えぇ?」
「そうなんですよ!だからさっさとくたばってくれると嬉しいです」
投擲を再開しようとするナインを睨みながら、エルは思考を巡らせる。
(――――分析は大体できた。相性最悪だろクソが)
しばらく攻撃を受け続けて分かったが、おそらくこいつは私よりも近接戦闘が苦手だ。ずっと遠投からの魔法発動を繰り返していて、接近戦を得意とする私と距離を取り続けているからな。
下調べも済んでるって訳かよ・・・相性悪いはずだ。
そして風属性と火属性しか使っていないことから、属性はその二種類しか使えないと思われる。まぁ思わせぶりかも知れないが、今はそんなこと考慮している余裕はない。
そして一番重要な要素が一つ。こいつの魔法はおそらく――――
「――――倍化魔法ですよ」
「ッ!?」
「そんなに驚かなくても・・・どうせもうバレてるだろうから、言っても一緒だろうと思っただけです。なんせ相手は“神童”と呼ばれたあのエルヴィ・ストームですからねぇ」
「・・・」
「自慢の怪力もこう距離を取られてはどうしようもないでしょう?はは」
「・・・調べ物が上手なんだな」
挑発には乗らない。
――――倍化魔法とは、単純に魔法の威力を底上げすることができる魔法だ。
奴は魔石を使うことで魔力消費を極限まで抑え、その分の魔力で超威力倍化魔法を放っていると思われる。
相当の技術と習練と――――質のいい魔石がなくては成立しない戦闘スタイル。
確実に私を潰す気だ。
それならこっちだって全力で行かせてもらう――――
エルは足を屈伸させ力を溜める。筋肉がきしみ、弾けんばかりに収縮した。
この技は筋肉への負担が大きいので一度しか使えないのだが、出し惜しみしていられない。
「いくぞオラ!」
足の力を解放し、ナインとの距離を一気に詰めた。
――――縮地である。
「速いっ!?」
ナインの反応速度をやすやすと超え、一瞬でナインの眼前に現れるエル。
顔面にもう一発食らわせてやる――――
エルは右腕に力を込めて振りかぶると、男の顔が恐怖に歪む。
「手加減無しだ。食らえ!」
「やめっ・・・なんてね」
「!」
エルの全力ストレートが顔面へと到達する瞬間――――ナインは自らの両眼を覆う。
眼前には白くきらめく宝石が放られていた。
しまった!ハメられ――――
「待ってましたよ、この時が来るのを」
「ッ!――――」
パチン。
眩いほどの閃光が、エルの視界に満ちた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「油断しましたね。ははは!」
「・・・」
「光属性も使えるのです!うまく引っかかってくれましたね!」
「・・・」
「――――あれ、聞こえてますー?」
「・・・」
「はぁ。全くここの人たちはつまらないですねぇ。もう気絶しちゃったんですか?」
激しい閃光に視力を一時的に失ったエルは、その衝撃で昏倒してしまっていた。
ぐったりと倒れるエルに、男は近づかない。
「エルヴィの怪力で不意打ちされてはたまったもんじゃないですからね」
ナインは倒れているエルからいったん距離を取ると、再び少女の方へ向き直った。
「とどめは安全な場所からさしてあげましょう」
火属性魔石を二つほど取り出し、エルの方へと放るナイン。
「特大の炎で送ってあげます」
パチパチン。
倒れたエルの肢体を、燃え盛る灼熱が包みこ――――まない。
「はぁ?」
そこに立っていたのは、ナインと同じく黒い服に身を包んだ髭の男だった。
エルを焼くはずだった魔石は二つともその男の手のひらに握られている。
「おいお前――――」
「いったい誰ですかあなたは。邪魔しないでくだ・・・」
「――――楽に死ねると思うなよ」
男はそう言って、すさまじい殺気をナインへと向けたのであった。




