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33話 襲撃②





 「出来ればもっと平和的に交渉したかったんですがねぇ」


 そんな微塵にも思っていないことを呟き、男はニヤニヤと笑った。

 

 「あれ?返事が無いですねぇ。殺しちゃったかな?」


 ナインは崩れた壁にもたれかかるリリーに近づき、呼吸を確認する。

 かなり浅くなってはいるものの、かろうじて胸は上下していた。


 「危ない危ない。もし殺しちゃったら、何て怒られるか分かんないからなぁ」


 ナインの目的はどうやら「リリーを生きたままさらうこと」のようだった。


 しかもかなり計画的である。

 その証拠に、リリーが生きていることを確認したナインはすぐさま懐から縄を取り出し、手際よくリリーの体の自由を奪っていった。

 順番に手と足を縛っていき、次は猿ぐつわをかませようか――――というところで、突然男の動きが止まった。


 「・・・美しい」


 どうやらリリーの美貌に見惚れているらしい。

 髪を掻き分け、リリーの顔を見つめるナイン。

 

 「先に頂(・)い(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)か(・)――――」


 リリーの唇めがけて、自分の唇を近づける。

 思わず目を背けてしまいたくなるような行為が行われようとしていた――――


 その時。


 「――――貴様」


 ぐい、と左腕をつかまれる。

 腕が折れんばかりの怪力だ。


 同時に放たれた尋常ならざる殺気は、ナインにすぐさま臨戦態勢を取らせるには十分だった。


 「ん?誰だおま」


 そこにはワンピースを着た幼い少女が立っていた。

 ナインがその金髪少女――――エルの姿を捉える前に、ナインの視界が大きくゆがむ。


 「シスターから・・・離れろッ!!!」

 「ぐおぉっ――――」


 エルの鋭い膝蹴りが男の顔面を捕らえたのである。

 ナインの顔が一瞬歪み、そのまま体ごと吹き飛ばされていく。


 バリバリバリ!ガシャン!


 男は壁のステンドグラスへ激突し、それすら突き破って外へと転がっていった。


 「・・・」


 何も言わないまま、横目でリリーの様子を確認するエル。

 彼女が吐血して気絶しているのが見えると、思わずエルは唇を噛み締めた。


 「ここにいたかエル!さっきの音はなんだよ!」


 聖堂の西扉から山口が飛び込んで来る。

 エルは砕け散ったステンドグラスの方を向いたまま、山口へ声をかけた。


 「グッサン、グリスはどうした!」

 「とっくに帰らせたよ!」

 「・・・そうか。とにかくシスターを頼む!」


 グリスがいれば、医療魔法でリリーを回復させてもらうことができたのだが・・・運悪く帰ってしまったらしい。再び唇を噛む。


 くそッ――――背に腹は代えられない。


 「グッサン!」


 エルは、

 「リリーを山口に任せ、自らは外にぶっ飛んでいった男を叩く」

 という判断を瞬時に下した。


 「シスターを連れて逃げてくれ。任せたぞ」

 「え、ちょっちょっと待てエル――――」


 山口の制止を無視して、エルは外へと飛び出していった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 「痛いじゃないですか~やだなぁもう」


 エルが暗闇へと一歩踏み出すと、真っ黒な格好の男がニヤニヤしながらふて寝しているのが見えた。

 その頬にはひどいあざができているものの、その軽すぎる態度は蹴りによるダメージを全く感じさせない。


 こいつ・・・ふざけてるのか?


 「僕はえっと・・・そうだ、ナインです。よろしくお願いします」

 「誰もてめぇの名前なんざ聞いてねぇよ」

 「うひゃー当たり強いなぁ。僕何かしちゃいましたかね?はは」

 「・・・外道が」


 作り物の笑顔を顔に張り付けたその男は、執拗にエルを挑発する。


 「あれ?あなたもしかして・・・リリーの護衛ですか。協会から派遣されたとかいう」

 「そういう貴様こそ何者だ。『祝福者狩り』か?」

 「『祝福者狩り』?・・・はぁ、あんな雑魚集団と一緒にしないで欲しいな。第一あなた方『祝福者(スキルホルダー)』は、あんなチンピラ共なんかにやられるタマでもないでしょうに」

 「・・・黙れ」

 「やれやれ、手厳しいですねぇ――――」


 突如男が立ち上がったかと思うと、


 「――――どうぞ」


 「何か」をエルへと投げつけた。

 とっさに回避行動をとったエルは、目の前まで迫ったその「何か」を視認する。


 これは・・・結晶魔石か!?


 「ほいっと」


 パチン。


 男の指鳴らしに合わせて結晶魔石が発光する――――と同時に、燃え盛る爆炎がエルに襲い掛かった。

 

 「くっ!」


 回避と同時に水属性魔法「ウォータープロテクト」を放ちガードする。

 炎の勢いを利用して横方向へ転がることで、何とかまともに食らわずには済んだものの――――右足を焦がされた。


 なんて威力だ・・・

 これは絶対に、普通の属性魔法なんかじゃない。


 もしや・・・


 「今ので合わせて一万王国銀」

 「・・・は?」

 「魔石の値段ですよ!風属性魔石と火属性魔石!」

 「だからなんだよ」

 「早く死んでくれませんかね?このままじゃ僕破産しちゃいますよ」


 あろうことか懐の心配をしだす男。こいつはいよいよ、普通じゃない。


 「そいつは結構。さっさと破産しろや、ゴキブリ野郎」

 「言ってくれますねぇ・・・させてみろ、ガキが」


 男が再び振りかぶる。


 エルも再び回避行動に入りながら、この厳しい戦況を打開する策を練り始めていた――――






 

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