21話 教えて、エル教官!②
「グッサン、頑張って!」
いつの間にやって来たのか、中庭を囲む通路からシスターが顔を出し、俺に声をかけてきた。
「おう、ありがとう・・・」
しかし、ちょっと魔力を使ったくらいでこの体たらくだ。
エルのしごきが終わる頃にはまた彼女の世話になってるかもな・・・
俺のそんな懸念はお構いなしに、エルは指導を続けていく。
————実にスパルタである。
「次は属性選択を覚えてもらう」
なんじゃそりゃ。
「いいか。属性魔法というのは、一度に制御できる属性に限りがある」
「と、言いますと?」
「右手で一度に操れる属性は一つだけ。例えばさっき見せた『原初の炎』を右手で発生させた場合、同時に右手で他の属性を操ることは出来ないし、しちゃダメだ」
「だから、どの属性を使うのかを選択する必要がある・・・ってことか」
「その通り」
教官曰く、魔力を放出できるのは体の末端である両腕と両足だけである。
つまり、基本的には手と足からしか魔法を使うことは出来ない。
そして腕一本、足一本につき制御できる属性は一つだけ。
二つ以上使おうとすると互いの属性が反発し、急激に反応を起こすため非常に危険である。
過去にはそれが原因で死者も出ているとかいう話だ。
よって末端一つにつき一種類の属性を選択し、使用しなくてはならない・・・らしい。
「ますます魔法ってヤバい技術なんだな・・・」
「————怖気づいたか?」
「いや・・・やるよ。俺のために、せっかくエルが教えてくれるんだしな」
「その意気だ。私みたいなガキでも制御できるくらいなんだから、グッサンならできるはずだ」
それに、その魔力量なら暴発することはまずないだろうしな————と続け、眉を上げるエル。
全く・・・厳しいんだか優しいんだかわからんな。
「ものは試しだ、やってみろ。媒介は右手、選択属性は火・・・イメージをより鮮明にな」
「オッケー!」
さっきエルがやっていたように右手で上を指差す。
そして、炎をイメージして魔力を流す————
再びどっとした疲れを感じるが、ここで折れるわけにはいかない。
俺は指先に意識を集中させて強いイメージを保ち続ける。
・・・よし!いいぞ!
少しずつ指先に熱が集まり始めた!
後は徐々にこれを大きくしていけば————
「————待てッ!今すぐ中止しろッグッサン!」
「え?あと少しなのに何言って————」
途端、目の前に瞬く閃光。
次にやって来たのは衝撃だった。
同時に数十本の金属バッドで殴られたかのような強い打撃である。
————ドゴンッ!
遅れてすさまじい爆発音が耳にこだました。
「ぐッ!・・・大丈夫かグッサ————」
そのエルの言葉を聞き終わらぬうちに、俺の意識は彼方へと葬り去られた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うぅっ痛てぇ・・・はッ!?ここはまさか————」
痛む頭を押さえて飛び起きると、そこは俺の病室だった。
動きに合わせてベッドが弾んでいる。
俺は胸を撫でおろした。
「はぁ・・・よかった・・・」
マジでビビったぜ・・・
もしや死に戻ってしまったかと思ったが、なんとか無事だったらしい。
今回ばかりは本当に逝ってしまったかと————
「ぶげッ!」
安心したのもつかの間、頬に強烈な一撃が見舞われる。
「痛いですよ・・・教官・・・」
ベッド横にはエルの姿があった。
そう。エル教官による右ストレートが、見事に俺のあごを捕らえていたのだった。
「グッサンのバカ!アホ!死にぞこない!」
俺に向かって思い思いの暴言をぶちまけるエル。
散々泣きはらしたと思われるその顔には、いくつも涙の筋ができていた。
「・・・ごめん、エル」
俺が申し訳なさそうに謝ると、俺の胸にしがみつきそのくしゃくしゃの顔をワイシャツに擦り付けながら、わんわんと泣き出した。
そんなエルを見て、なんとも言い難い感情が押し寄せる。
この時、俺は————嗚咽するエルの頭をなでてやることしか出来なかった。
それがエルにしてやれる精一杯だった。