22話 なんか眠くなってきた
エルの泣き声を聞きつけたシスターが、タオルを持って病室に入ってきた。
俺にしがみつくエルを見て、わずかに微笑むシスター。
心から安心したという表情をしている。
「————平気ですか、グッサン」
「ああ。俺は大丈夫だ。それよりも、また迷惑をかけてしまって済まないな」
「いえ、今回私は何もしていませんよ」
「え?」
今回もシスターが治療してくれたんじゃないのか。
ではなぜ俺の怪我が治っているんだ?
あの衝撃じゃ骨の一本や二本は折れていたはすだが・・・
「もしかして————」
「グスッ・・・私の魔法、だよッ・・・バカ野郎・・・グスッ」
泣きながらそう答えるエル。
こいつ、俺の胸に顔をうずめたまま喋るのでかなりくすぐったい。
相変わらず涙の温かい感触が腹を伝う。
・・・そうか。
エルが魔法で守ってくれていたのか。
あのすさまじい衝撃から、あの一瞬で————
「・・・一体、何が起こったんだ?」
あの閃光と衝撃・・・やはり原因は俺、なのか?
「————油断したんですよ、あなたは」
シスターが冷静に自らの分析を語る。
「あれは明らかに属性同士の反発反応でした。それも、七属性全ての反発です」
「属性全て、か」
「普通ならこんなことは起こりません。どんなに集中力を欠いていても、せいぜい二、三種類の属性選択を誤るなんてことはね」
「・・・でも俺は」
「ええ。あなたは『完全適性者』だった。少し気を緩めただけでも属性反発を引き起こしかねない、そんな体質です」
「————自覚が足りなかった、のか」
どうやら俺は、今まで魔法というものを全く理解していなかったらしい。
本で読んだだけの知識を鵜呑みにし、実践でもそれを引きずって集中力を欠いていたんだ。
「バチが当たったのかもな・・・」
きっとそうだ。
調子に乗る性格に天誅が下ったのだろう————
「そんなことない!私が悪いんだ!私が無理にやらせたから・・・」
エルはこう言ってくれるけど。
「ごめんなエル。ありがとう」
心からの感謝を告げて、俺はエルをそっと抱きしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
山口の部屋からは夕暮れが綺麗に見える。
そこから美しくきらめき沈む夕日を眺めながら、エルはぼんやりと山口の寝息を聞いている。
あの時————エルがとっさに使った風魔法「ウィンドプロテクト」は、異例の七属性反発から山口を守った。
しかし、体の外傷は無くとも精神的なダメージは少なからずあっただろうし、おまけに魔力切れ寸前だった山口が疲れていないはずもなかったのだ。
エルに殴られ泣き付かれた後のことである。
一応念のためということで全身をシスターに診察してもらった山口は、シスターが日課をやりに聖堂へ行ったためエルと二人きりになる。
片や、少女に愛情のある男。
片や、男のために涙を流した少女。
その男と少女が、部屋で二人きり。
————そりゃもう、色々と起こってしまいそうな雰囲気だったのは間違いなかった。
少なくとも少女の方は何となくそれを感じていた。
しかし、この山口という男。
この少女が思っているよりも、ずっと曲者だったのである。
急に「なんか眠くなってきた、寝るわ」と発したかと思えば、抱き付いているエルに構わず寝る体勢になり、数秒後には寝息を立て始めた。
エルはただただ絶句していた。
「こいつ・・・」
ムードも雰囲気もあったものではない。
今度こそボコボコにしてシスター送りにしてやろうか、とはエルの心の内である。
————そんなこんなで、山口は寝てしまったしシスターはお祈りしてるし、やることもなかったエルはどうしたのか、というと。
・・・ただ静かに、夕日を眺めていたのであった。




