23話 嫌な想像
「はっ・・・寝ちゃってた・・・」
「ぐー、ぐー、ぐがっ」
「・・・うるさいな」
隣で聞こえる大音量のいびきによって、エルは最悪の寝覚めを迎えた。
どうやら、決して広くはないベッドの上で、山口の腕を枕代わりに寝落ちしていたようである。
「こいつって奴は・・・グッサン」
「ぐー、ぐごっ・・・ぐー、ぐー」
「————鼻つまんでやろ」
「ぐっ!・・・すー、すー」
(お、静かになったぞ。)
外を見ると、夕日は沈み夜がすっかり更けたようだ。
少しいびつな月が雲の切れ目から顔を覗かせている。
「あっ、そうだ」
エルは何かを思い出した様子でベッドから降りる。
静かになった髭のおっさんに布団を掛けてやってから、物音を立てないように部屋から出た。
「流石にもうお祈りは終わってるよな・・・」
思い出したというのはシスターのことだ。
シスターが聖堂に行ってしまう前に、「お祈りが終わったら私の部屋に来てください」と言付けされていたのを思い出したのである。
シスターの部屋へ向かう。
その足音だけがエルの耳に響いている。
うす暗い廊下を天井から照らすのは、エルの『原初の光』によって明かりを与えられた灯である。
「シスターから呼び出し食らうなんてな・・・何かしちまったか?」
無論エルは知る由もない。
これからシスターによって伝えられる事実も、部屋で一人エルを待つシスターの気持ちも、だ。
「ふぁあぁぁ・・・疲れてるなぁ、私も」
昼間泣きじゃくっていた疲労、いわば泣き疲れたことによる眠気に襲われる中、なんとかエルはシスターの部屋にたどり着いた。
「シスター私です。来ましたよ」
声をかけるついでに軽くノックをしてみる。
————返事は、無い。
「シスター、いないんですか?・・・入りますよ」
くっつきそうな目をこすりながら扉を開ける。
そこには、椅子に座ったまま机に突っ伏しているシスターの姿があった。
「寝ちゃったんですか?シスター?」
「すー、すー、すー」
(寝てるみたいだな。)
「全く私も疲れてるってのに、グッサンもシスターも呑気に寝やがって・・・ま、これも世間が平和な証拠かな」
もう一度あくびをしてから、シスターに毛布を掛けてやる。
「風邪ひきますよ、こんなところで。あなた一人の体じゃな————ん?」
美しい横顔を覗くと、いくつもの涙の筋ができている。
この人・・・泣いていた、のか?
「それにこれは・・・」
シスターの手には手紙が握られていた。
宛名にはシーザー・ブライトとある。
どうやらこの手紙を読みながら泣いていたようだ。
「ブライト・・・シーザー、ブライト・・・奴か。思い出したぞ」
ブライトという名に覚えがあるのも当たり前の話で、エルはこの男に会ったことがあるのだ。
直接話した訳ではないが、あの高圧的な態度と生理的にムカつく顔はしっかりと覚えていた。
エルによるランキング『二度と会いたくない人物 Best10』でも上位に食い込む程の実力の持ち主である。
「しかし、なぜ宮廷官僚なんかがシスターに・・・協会を介さずに連絡をよこすなんて、調子に乗ってるにもほどがあるぞ」
シスターを起こさぬよう、慎重に彼女の手から手紙を抜き取る。
「どれどれ・・・」
そのまま手紙を読んでいくエル。
「・・・」
読み進めていく内に、エルの表情は動揺を隠せないほどに歪んでいった。
「まさか・・・シスター・・・」
この時エルは、自らの想像が間違いであることを祈っていた。
手紙の内容が真っ赤なウソであることを信じていた。
しかし・・・本当である。
エルが想像したことはすべて現実に起こっていることなのだ。
そう、その手紙の内容とは————




