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39. 私は気にしないのだがな

 どうにもならないので、結局、セレナをおぶってオレの家へと連れて行くことにした。


 セレナの体温を背中に感じながら夜道を歩き、ようやく客室のベッドに寝かせることに成功。

 眠る彼女は酔いのせいか、ふにゃりとした無防備な笑みを浮かべている。

 

「はあ……、おやすみ」

 

 その姿に何と名前をつければいいかわからない感情を抱えたが、毛布をかけてやり部屋をでようとしたところで

 

「ライル……」

 

 セレナのかすかな声が静かな部屋の中ではっきりと耳に入ったが、寝息を立てる姿が見えるだけである。妙にばくばくと高鳴る心臓を落ち着けながら、自分の部屋へと戻るのであった。

 

 

 明くる朝、自室にて目を覚ます。

 

「はあぁぁぁ、憂鬱だ……」

 

 昨晩セレナを寝かせたはずの客室の前に立ち、恐る恐るノックを響かせる。しかし、返事はきこえず、声をかけてからゆっくりとドアを開けた。


 既に彼女は起きていたようで、毛布がきっちりとベッドの上で折りたたまれていた。

 どこにいったのかとリビングに向かうと、いいにおいと共にナイフがまな板をリズミカルに叩く音が聞こえてきた。

 

「ライル、おはよう。すまないが台所を使わせてもらっているぞ」

 

 彼女は昨日酔いつぶれていたとは思えないほど、朗らかな笑みをオレに向けてきた。

 

「悪いが、料理を運んでもらえると助かる」

 

「あ……ああ……わかった」

 

 新鮮な野菜と焼きたてのパンを使った朝食だった。うちには基本的に保存食しかないはずで、朝市で買ってきたのだろう。

 調理道具はこの前持ち込んだものが置かれたままで、それを使ったようだ。


 料理を並べ終えると、テーブルを挟んで対面に座る。

 

「昨日は世話になったようだな。不覚にも急に眠くなってしまった。しかも、家に泊めてもらうなど、ずいぶんと迷惑をかけてしまった」

 

「いや、それはいいんだが、その……気にならないのか……?」

 

「なにがだ?」

 

「いや、別にいいならいいんだが……はぁ……」

 

 昨日の夜からどう言い訳をしようか悩んでいた自分がバカらしくなった。

 心のつかえもとれて、改めてセレナの作った料理を味わって食べる。

 

「うまいな。前のロックレプタイルのスープもそうだったが、セレナは料理上手だな」

 

「一人暮らしが長いからな。自分の食べたいものをつくっていただけで、趣味みたいなものだよ」

 

「そういうものか、オレには無理そうだな。でも、これが毎日食べられるなら最高だろうな」

 

 自分の好みの味で作れたら最高だろうが、たぶん長続きしそうもないだろう。

 そんなことを考えていたのだが、セレナは口元をもにょもにょと動かし、まるで酔ったときのように頬を朱に染めていた。


「そ、それなら、ライルがよかったら作りにいってもいいのだけれども」

 

 セレナは、はにかんだような笑みをうかべなら、上目づかいで遠慮がちに聞いてくる。

 いつもとは違うギャップからくる破壊力に、直視できなくなり思わず視線を横にそらす。

 

「わざわざ来てもらうなんて悪いし、遠慮しておくよ」

 

「そうか……、私は気にしないのだがな」

 

 食事を終えて、下げた食器も洗おうとするセレナに「さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない」と代わろうとしたところ、「私が」「いやオレが」とすったもんだの末、結局二人で流しに並んで立つことになった。

 

 隣に立つセレナからは鼻歌が聞こえ、耳に心地よく響いていた。

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