40. このままいったらたぶん落ちる
最近、セレナの様子が変だった。
飯はちゃんと食べているのかとか、部屋の掃除は大変じゃないかなんていう話をさりげなく混ぜてくる。
ぐいぐいと距離をつめてくるわけではなく、いままでどおり適度な距離をとった関係ではあったが、なんとなく察しはついてしまう。
もしかしたら、オレ自身の態度も変なことになっているのかもしれない。
セレナから向けられる感情に動揺し、この年でこんな浮ついた気持ちになるとは思わなかった。
オレは独身主義だったはずで、彼女とかいなくても平気なはずだったんだ……。
この日も、狩りの後、セレナに夕飯を誘われたが先約があるからと断り、酒場へと向かった。
「よっ」
「ああ、先にやらせてもらってるよ。しかし、おごりとかホントかよ?」
「かまわんぞ。好きなもの頼んでくれ」
ジョニーの向かい側に座り、自分の分も注文する。
酒が入り始めると、いつもどおりジョニーと益体もないばかな話を始める。
「ところで、ライル」
「なんだ?」
「セレナとはどこまでいったんだ? 襲ったのか?」
いきなりの言葉に飲みかけの酒でむせそうになる。
「な、なに言ってんだ、おまえは!」
「え……うそだろ……。襲ってないのか」
「襲うわけないだろ! どうなったらそういうことになるんだよ」
「だってよぉ、あんな美人でしかも結構スタイルもいいだろ。二人きりで野営することもあるだろうし、そしたら、いろいろもよおすんじゃないのか」
ジョニーの生々しい物言いに色々と思い出してしまう。鎧を着ているときは分かりにくいが、セレナはけっこう着やせするタイプらしい。普段はそういったことを意識しないように視線を向ける先に注意していた。
「ふむ……、あ、セレナだ!」
「なに!? どこだ」
さっき別れたオレがここにいるのを見られるのは気まずく、腰をうかし慌てて周囲を見回す。
だが、その姿はどこにもなく代わりにジョニーが大笑いする声が響く。
「ほんっとに、わっかりやすいなぁ。おまえってやつはさ」
「うるさい……」
「おまえさぁ、最近、頻繁にオレに飲みにいこうって誘うけど、セレナのこと避けてるんじゃないのか?」
「それは……、また前みたいに酔いつぶれられたら困るだろ」
自分でも苦しいいい訳だと思う。ジョニーにもばれているようで、にやにや笑いを浮かべたままだ。
「おまえに断られてしょんぼりしてるセレナ見ていると、どうしても一言いってやりたくてさ。どうしてだ? 別にパーティーメンバー同士として親しくしていけばいいだけだろ」
こう見えて結構つきあいのいいジョニーにも迷惑をかけているわけで、さすがに黙っているわけにもいかなかった。
ぽつぽつと最近のできごとを話していくのだが、口元をにやつかせながら聞いているジョニーの顔をみていると、なんでオレはこんなことを話しているのだろうと恥ずかしさがこみあげてくる。
「なるほどね。んで、おまえはどうするんだ?」
「わからん、揺らいでいる。たぶん、このままいったら落ちる。……しかし、この年でなぁ」
「恋愛に年齢なんて関係ないだろ。くだらんプライドなんて捨てちまえよ」
しかし、別れたあとのことを考えると、パーティーメンバー同士の恋愛はきつそうだ。
「この先そんなにお前のことを慕って優しくしてくれるやつなんて、たぶんそうそう現れないだろ」
「いないよなぁ。むしろなんでここまで好意をもってくれるのかが謎だ。オレのどこがそんなにいいのかわからん」
「まったくだ、オレもそう思う。おまえにあんな美人はもったいない」
殴るぞ、この野郎。
にらみつけるがジョニーのやつはケラケラ笑っている。
なんか今まで意地張ってたのがバカみたいだ。
結婚はタイミングっていうが、たまたまオレにそのタイミングがまわってきたってことなのかもしれない。
人の多さと世界の広さを考えたらこのタイミングは奇跡なのだろう。
「お前も好きなら、今すぐにでもはっきり気持ち伝えてこいよ」
「告白はおいといて、とにかく相手をよく知ることから始めるよ」
「おまえの好きにやるといいさ。でも、いいのか? もしかしたら、過去につきあったことのある男がわんさかいるのかもしれんぞ。セレナはもてそうだからなぁ」
「彼女も30を過ぎているんだ。過去になにかあるのは当たり前だろう。過去まで独占する気はないよ」
明日、彼女の家を訪ねてみよう。
とりあえず、どこか遊びにでも誘ってみればいいのだろうか?
高難易度クエストで魔物と相対したときよりも、かつてない緊張が満ちてきたのであった。




