27. 魔物の解体作業の手伝い
ギルド会館へ入ると、受付カウンターに立つリリーが不思議そうに見てくる。
「あら? ライルさん、今日はどうしました?」
「クエストを受けにきたんだ」
「えっ? でも、昨日クエストを完了させたばかりじゃあ」
「ちょっとお金が入り用になってな。今日中にすぐに終わりそうなクエストはなにかないか?」
事態を飲み込めないまま、依頼の書かれた受付表のページをめくりだすリリー。
「あっ、そうだ。依頼ではなくて、ギルドからの仕事があるのですがどうでしょうか?」
提示された額は一日でかせげるものは十分なものだった。
そして、やってきたのはギルド倉庫。
昨日届けたばかりのチューブワームの巨体が鎮座している。
この魔物の解体作業の手伝いが本日の仕事となった。この巨体を解体するにはかなり骨が折れそうである。だからこそ、こうして仕事がもらえたわけだが。
「なんだ、ライル。自分で狩ってきた魔物を解体したいなど、そんな殊勝なやつだったのか」
解体用のナイフと作業着に身をつつんだガンツじいさんが話しかけてくる口調には、からかいが含まれていた。
今のオレもギルドから作業着を借り、同じ格好をしていた。
オルニスはというと
「なによこれ、服のサイズがあわないじゃない」
「一番小さいサイズなんだがな」
腕と足の裾をまくりあげただぼだぼの作業着姿のオルニスを見るガンツじいさんの視線は、孫を見るそれのように楽しげだった。
チューブワームの解体を始めるが、オルニスは初めて扱う解体用ナイフの取り扱いに四苦八苦していた。
「いいか、力をいれずに刃を立てて切ってみろ」
「こ、こうかしら?」
「おお、うまいうまい」
好々爺じみた笑みをうかべるガンツじいさんとオルニスをよそに、手早く解体を進めていく。
血と脂でよごれたナイフは切れ味が落ちるため、新しいものに取替えるのだが、この巨体を処理するためには一体何本必要になるのかわからなかった。
「なあ、オルニス、あれやってくれよ」
「なによ、アレって?」
「ほら、この前の狩りのとき雷の槍をつくりだしてただろ。あれと同じ要領で、よく切れるナイフとか作れないか?」
「無理よ、あれはわたしが常に魔力を注ぎつづけて形を保つように制御しているんだから。わたしの手から離れれば、ほらこの通り」
試しにと作り出したこぶりなナイフを作業台の上におくと、形を崩し霧散していった。
「そっか、残念。それにしても、その魔術便利そうだよな。それも魔術学園で教えてくれるのか?」
「ちがうわよ、これはわたしのオリジナルよ!」
「ほう、新しい魔術を開発するとは、嬢ちゃん大したものだな」
ガンツ爺さんにほめられて、オルニスは鼻を高くしながら得意げな顔をする。
「たしか錬金術との複合魔法だといってたな。錬金術については詳しくないが、魔力を変質させるものだったよな。一旦発動させた魔術をホールドして、固定化させたってところか?」
「むう……、なんでわかったの?」
オレの推測に対してオルニスは否定することはなく、不満そうに唇をとがらせる。
「似たようなことをしたことがあってな」
風魔術を発動させ一旦ホールド、そして握っているナイフの刃に纏わせた。
「なっ、こんな感じだ」
風の刃によって切れ味が増してさくさくと切れるようになったナイフのおかげで、作業がはかどるようになった。
オルニスは目を見開きながら、その視線はオレの手元と顔を交互にせわしなく動いていた。
「なっ、じゃないわよ! それって魔力制御でも高度な部類にはいる付与魔術じゃない!」
「そうなのか? オレはこれを魔力剣って呼んでるぜ。かっこいいだろ」
「却下よ!」
「えー、なんでだよ」
「だって……わたしのこれも魔力剣ってよんでるし……」
「んだよ、じゃあ、なんかいい名前考えてくれよ」
ガンツじいさんは切れ味の落ちてきたナイフを新しいものに変え、難しい顔をしていた。
「あいかわらず便利なもんだな、それは。オレにも使えないのか?」
「前にも教えたろ。魔力をナイフにまとわりつかせるだけだって」
「おまえさんの説明じゃ、よくわからん。ああ、くそ、またナイフを研ぎにださんといかんな」
「まったくよ、なんでそんな感覚的で適当な制御で付与魔術が使えているのかしら……。魔術っていうのは理論と計算で成り立っているものなのよ」
ガンツじいさんとオルニスの二人がかりで、変だと指差されてしまった。
それからは、流れ作業でオレが肉から皮をはいでいき、ガンツじいさんが余分な肉を皮からそいできれいに仕上げていく。
オルニスも負けじと作業の速度をあげていく。
オルニスの横顔をチラリと見ると、真剣な目つきと丁寧な手つきで作業に集中している様子が見えた。
こいつにはこういった職人気質な仕事が合っているのだろうな。
それから、夕方前まで作業が続き、この日の作業は終了となった。
「おまえさんたちのおかげでだいぶ作業もはかどったぞ。嬢ちゃんもよくがんばったな、いい仕事だったぞ」
「ま、まあ、わたしにかかればどうってことないわよ」
褒められてこそばゆそうにするオルニスだったが、口元はうれしそうにほころんでいた。ガンツじいさんは、そんなオルニスを見ながら目を細めていた。




