18. あなたとの決着がまだついていないのだから
翌日、セレナの泊まる宿に出向くと、少女の甲高い声が道を歩くオレの耳にまで聞こえてきた。
「どうしてよ! 早く帰りましょうよ!」
「いや、だからな、何度もいうがそれは無理だ」
宿のロビーでは、まなじりを釣り上げながら詰め寄る少女と、困惑するセレナの修羅場が展開されていた。
「セレナ、あー……その……今来たのはまずかったか?」
「おはよう、ライル。問題ない」
気まずいながら声をかけると、セレナは助かったとばかりにオレの方を見てくる。
「問題大アリよ! あんたが全ての原因であるライル・ガランディアね!」
「オレが? なんで?」
事情もつかめないまま、少女は鼻息荒く食って掛かる。
「あんたのせいでセレナが、ノースガンドの街を離れたのよ!」
「お、おい、オルニス」
「あんたがあんなパーティー募集なんて出すから」
「パーティー募集? ……そういえば、出していたな」
セレナが来てからは、遠い過去のように感じてすぐには思い出せなかった。
「セレナは、南の街サウスハイムから回ってきた募集を見るなり、とびだし……プギュゥ……」
オルニスは全てを言い切るまえに唐突に言葉を切った。
見ると、セレナの腕の中で完全に気を失ってだらりと手足を伸ばしている。
「問題ない、気にするな」
オルニスの身体を支えるセレナは無表情に言い切った。
そして、少女の背中に手をまわして活を入れる。
「はっ……、わたしは何を……」
「きっと旅の疲れが出たのだろう」
「そうなのかな? なんか、最後のほうの記憶があやふやなんだけど」
二人のやりとりを眺めながら、蚊帳の外な気分を味わっていた。
「えっと、何の話をしてたっけ……、とにかくセレナはすぐにノースガンドに戻るのよ!」
「それについては何度もいったが、今の私はこの街で活動しているから戻るつもりはない。既にパーティーも組んでしまっている」
「でも!」
はっきりと断られるがオルニスはなおも食い下がる。
「オルニスっていったか、ギルドは冒険者を縛ることはできない。向こうの支部のギルマスがいっていたのは、できれば連れて帰ってくれってことだったんじゃないのか?」
「それは、そうだけど……」
言葉を濁し、口からうめき声を漏らしている。どうして、そこまでセレナを連れ戻すことにこだわっているかがわからなかった。しかし、この娘の性格からいって素直に話しそうもないだろう。
「料理屋のおばちゃん! セレナがいないっていって寂しがっていたわよ!」
「ああ、あの店はクエストの帰りによく利用させてもらっていたな。今度、ノースガンドに帰ったときにまたよらせてもらうといっておいてくれ」
それからも、オルニスはあれこれと理由を並べていくが、セレナの心にはまったく響かないようだった。
「まいったな……」
「すまない、ライル。オルニスは私がノースガンドにいたころの知り合いなのだが、……ちょっとな」
「ちょっととはなによ! ひとをみそっかす扱いしないでもらえるかしら。わたしは王立魔術学園を卒業した天才魔術師オルニス・グレイシアよ! セレナ、まだあなたとの決着がついていないのだから、勝ち逃げなんて許さないんだからね」
セレナは言葉を濁すが、なんとなく今の様子からどんな関係だったのか想像がついた。血気盛んな若い冒険者が張り合っているのをみることがあるが、オルニスにとってのセレナがその目標なのだろう。
昔の自分も似たような部分があったので、オルニスのことを笑うことはできそうもなかった。
「セレナ、一応聞くが、活動拠点はとくにこだわりはないのか?」
「特にないな。ライルが移りたいというのならついていくぞ」
何の迷いもなくついていくというセレナに、若干の照れを感じながらも話を続ける。
「よし、じゃあ、オレも一緒にノースガンドに行こう。そうすれば全部解決だろう」
「いいのか? そんな簡単に決めて」
「冒険者なんてそんなものだろう。それに、こうやって身軽に動けるのは独り身の強みさ」
というわけで、ギルドに北の街に移ることを報告しにいくのであった。




