19. 絶対にダメです!
ノースガンドに移る旨を伝えようとギルドに向かい、最初に報告したのはリリーだったのだが
「だめです!!」
彼女の口からでたのは断固たる否定の言葉だった。
「だめなのか?」
「絶対にだめです!!」
リリーはばしばしと木製のカウンターを手でたたきながら大声をあげる。おっとりした雰囲気の彼女にしてはめずらしいことだった。
「どうしてだ?」
「それは……えっと……、ライルさん寒いの苦手っていってたじゃないですか。きっと風邪ひいちゃいますよ」
身体はいたって健康であり、風邪など、この10年ひいたこともなかった。
ただどうしたものか。このまま強硬に彼女を振り切って旅立つことも可能ではあるが、後味が悪い。
「よう、なんかおもしろいことになってるんだってな」
「ジョニーか」
軽薄な笑みを浮かべた十年来の友人が、気安い口調で話しかけてくる。その表情から、おもしろいことをかぎつけて引っ掻き回す気満々のようであった。
「おまえノースガンドにいっちまうんだってなぁ。さびしくなるな」
大仰な仕草と口調で、それがこいつの本心でないことはあからさまである。
「まさか、お前がセレナの実家にいって挨拶までしてこようなんて、本気なんだなって思ってよう。オレは涙をこらえながら、友人の門出を祝福しよう!」
そうきたかと思いながらもセレナに目配せを交わす。アイコンタクトで彼女にも意図は伝わってようで、うなずきかえしてきた。
ここはジョニーの演技に乗ってみよう。
「まだ決まったわけじゃないが、まあそんな感じダナー」
「なんですって……!?」
この茶番劇にいちはやく反応を見せたのはオルニスだった。
「セレナ……、もしも結婚したりしたら、そのときは冒険者はつづけるの?」
「あー、うん、もしも、万が一そんなことがあったら引退するかもしれないナー」
オルニスの問いに答えるセレナの口調は、投げやりな感じの棒読みだった。
「そういう魂胆だったのね。だからあんな簡単についていくなんて……。決めたわ! あんたをノースガンドには絶対に行かせない!」
「それでいいのか? ギルマスからのお願いとやらはいいのか?」
「いいのよ! セレナが結婚して引退なんてことにはさせないんだから!」
ビシリと指を突きつけながら宣言するオルニスを見ながら、ジョニーが含み笑いをこぼしていて、つられるように他の男どももニヤニヤと笑みを浮かべている。
セレナの方を見ると彼女は曖昧な笑みを浮かべていた。
どうやら、ジョニーの即興劇でノースガンド行きは阻止されたようだった。
しかし、オルニスと同レベルで、もう一人だけわかっていないのがいた。
「ライルさんにセレナさん……、もう、そんなご関係になっていたのですか……」
受付のリリーが口を手で覆いながら、オレとセレナを交互に見ている。
この子は、仕事の覚えは早いようだが、人間関係の機微については疎いようである。
「おい、リリー、あのな、わかるよな?」
肩にぽんと手をおき、この芝居の意味を伝えようとジッと目を見つめる。
すると、リリーは頬を赤らめながらうつむいてしまった。モジモジと手を合わせながら、チラチラと上目遣いに見返してくる。
「えっと、あの……」
彼女は何かを言いにくそうに口ごもる。そんな彼女に、再度、目で訴えてみる。
「そういうことだ」
「は、はい! わかりました!」
彼女は満面の笑みを浮かべながら何度もうなずいてくれた。
よし、これで一件落着だ、と思いながらジョニーを見ると
「あーあ、オレ知らね」
呆れ顔で大きくため息を吐かれてしまった。




