王都は危険っ!!……もっと、深い緑
「紅茶ポットと少し似ていますが、『キュウス』と言います」
やはり見覚えのある形、それは急須だった。しかし、王子の側近のイントネーションが違う。小首を傾げるイリアに、王子の側近は嫌な顔せず続ける。
「ウド、ウリエル……の」
「はい。ウドウリエルで飲まれているお茶です」
「ウドウリエルとは何ですの?」
「あ、はい。ウドウリエルは海の国の沖合いにある島国ですよ」
島国という言葉にイリアの心臓は早鐘を打つ。
ウドウリエルとは『日本風』の国なのだろうか。
この国が中世ヨーロッパ風な様に。
「ほ、他にウドウリエルの商品って扱っているのかしら」
イリアは逸る期待を圧しきれず訊ねた。
「え?いえ、茶葉専門店ですから。……イリアさま、ウドウリエルに興味がお有りですか?」
「ええ、そうですわね。今興味が沸きました」
「でしたら、今度ウドウリエルの物を仕入れて貰えないか聞いてみますよ」
王子の側近くんが!
天使の笑顔で!!
なんてっ、まあっっ!!!
有り難い申し出をしてくれる。
後光が射して見えるよ!
イリアは少年の、けれども大人になりかけの硬く傷のある手を握り締めた。
「よ、よ、宜しいんですのっ!?でしたら、是非っ、米――ウドウリエルの主食をお願いいたしますわっ!!」
「しゅ、しゅ、主食ですねっ!!」
イリアの頬は「お米が食べられるかもしれない!」と喜びの興奮で上気していたが、王子の側近の頬はイリアからの接触に驚き照れて上気していた。しかしイリアは米の事で頭が一杯で、王子の側近の様子には気付かなかった。気付いていたら手を離していた筈だ。
はた、と気付いた時にはイリアの小さな白い手は握り返されていた。
「えっ、と……あの?」
自分の方から手を握り締めていた事など棚に上げて、困惑した顔でイリアは王子の側近を見た。見て失敗した事に気付く。
近い、近過ぎる……彼の美しい顔が目と鼻の先にあります。
互いにテーブルの上に身を乗り上げていたようだ。
深い緑色をした瞳がイリアを射る様に見詰めていた。
それはイリアを捕らえて離さない視線で、イリアの体から落ち着きを奪った。
その視線から逃れたいのに、秋の森の失われていく命の様な翳りのある深い緑色の瞳は、それを許してはくれなかった。
だが不意に、いつものあどけなさの残る少年の顔で、しかし切なさそうに微笑してイリアを解き放った。
「今度、僕ともデートして頂けますか?」
南の次男坊とのこれはデートでは無い!と断固として言いたかったが、王子の側近の瞳に搦め取られてそんな事は口に出来なかった。
「わ、分かりましたわ」
王子の側近は破顔して同時に手を離した。
「嬉しいです!東の町をご案内しますね。何にもない所ですけど、今の時期でしたらお見せしたい場所がありますので」
「え、ええ。お伺いしますわ」
王子の側近は言いながらそそくさと椅子から立ち荷物を纏めていく。あまりの忙しなさにイリアが喫驚して吃る程だ。
そして背筋を伸ばすと、テーブルの上に載ったイリアの手を取りその甲に口付けした。
「ではまた後日、改めて……失礼します」
王子の側近は花の様な笑顔を振り撒いて去って行った。
イリアは呆然として彼の背中を見送っていた……。
「何……あれ」
「何であいつが居るんだ」
急に。
耳許で怒気を孕んだ低い声がしてイリアは椅子から転げ落ちそうになった。
まあ、イリアの腕を南の次男坊が掴んだので転げ落ちたりしなかったが。
「な、な、なん、きゅっ急に出て来ないでっ!!」
心底喫驚して、叫び、我に返り、空いてる手を心臓の上に置き深呼吸をする。
南の次男坊は面白くなさそうにイリアの腕を離すと、注文した料理をテーブルに置き、ドカッと椅子に腰掛けた。そのまま憮然とした表情でイリアを見詰めている。
「落ち着いたか?落ち着いたなら、温かいうちに食え」
言って、テーブルの上に肘をつくと眉間に皺を寄せたまま窓の外へと顔を向けた。
イリアはどうして良いか分からず、謝意を述べると料理に箸をつけた。
深い緑色は王子の側近の瞳の色です!
王子の側近が慌てて去ったのは、南の次男坊が戻って来たからです。
とある県のとある菓子店のCMのナレーションをパロッた一文があります。
分かる方、いるかな?
いつもありがとうございます!!
側近が案内するのは西ではなく東です。訂正しました2016.9.2




