優の依頼 と 麗華の修学旅行
「えっ!?」
麗華は一瞬何を言われたのか分からなかった。
思考がまとまらない。
「だから、依頼で海外に行かにゃあならん。その準備やらで忙しくなるから明日からしばらく来なくていい。」
(・・・冗談ではありません!!)
内心で麗華はわめき散らす。
ただでさえ麗華も修学旅行を控えている。
往復の日数や滞在期間を含めると二週間も会えないのだ。
さらに優からの不在宣告で会えなくなる日を含めると約一か月は会えない事になる。
そもそも優が依頼を受けるという事が珍しい。
その事を問いただす。
嫌味を込めて。
「仕事をするなんて気分が乗ったのですか?」
暗に自分達の依頼は簡単に受けなかったくせにと言う意味を乗せている。
これに優は顔をしかめる。
「俺だって受けたくねぇよ。だが、ギルドのお偉いさんが揃って頭を下げるんだよ。それに今回は別格だ。魔界化って言って悪魔化よりヤベェ依頼なんだよ。ヨーロッパのSクラスが返り討ちに会ってお鉢が俺ンとこに回って来たんだ。」
「!! そんな危険な依頼を受けるのですか!? それにまかいかとは?」
「・・・悪魔化は生命体が悪魔になるのに対して魔界化は建造物等の非生命体すらもこの世非ざる存在になる。そしてその魔界化した空間からは常に悪魔が生産され続ける。放っておける状態じゃねぇ。今は軍やギルドだけじゃなくヨーロッパの魔術結社も協力して解決しようとしているが抑えるのが精一杯で浄化する事が出来ないでいる。」
「・・・ニュースになっていませんよね?」
「ニュースで世界中に知られたら大混乱になる。紳士協定ってやつだ。」
「・・・大惨事になるのでは?」
「それを防ぐためのギルドでありSクラスだ。・・・それより俺に何か言いたいことがあって今日来たんじゃねぇのか?」
「・・・もういいです。」
自分の寂しさを理解してくれない優に麗華は拗ねてしまった。
とうとう修学旅行当日になった。
「麗華様? 顔色が優れないようですが・・・。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
だが、実際は真っ青である。
心配するなと言う方が無理であろう。
しばらく優に会えないという事がこんなにも自分を衰弱させるとは思っていなかった。
優からもらったアクアマリンのペンダントを制服の上からギュッと握りしめる。
だが、そんな麗華の顔色をもっと悪くする存在が現れる。
一之瀬麗華の「元」婚約者、藤宮武である。
「麗華、気分が悪いなら先生を呼んでこようかい?」
麗華はこの声を聞くだけで吐き気を覚える。
ある事件でこの藤宮武を心身ともに受け付けないでいる。
傍に居られるだけで耐えがたい苦痛がある。
「藤宮様、私と貴方は最早赤の他人です。婚約解消も互いの家同士で正式に決まりっております。何より麗華などと気安く呼び捨てにされる覚えはありません。」
「なら、僕が君を虜にしたら問題は無いわけだ?」
「・・・何を仰っているのか分かりません。私の親友をあの様な形で傷つけた貴方を私は絶対に許しません。目障りですので消え失せていただけませんか?」
「そんな事を言わないでおくれよ。僕の愛しい麗華。」
瞬間に鳥肌が立つ。
「・・・汚らわしい!」
そう言い残し麗華はその場を去る。
一之瀬家と藤宮家との間で何が起こったのか知らない者達はこのやり取りを呆然と眺めていた。
(しつこい!!)
搭乗手続きからずっと麗華に藤宮武は付き纏う。
何度追い払っても傍によって来る。
(私にここまで言い寄るという事は藤宮家が没落する寸前と言う話は本当のようですわね。一之瀬家ともう一度婚約して財政援助を受けようとしてるのでしょうが私がそのような事を許すものですか!! 殺しても殺したりない!!)
麗華には立場を超えて親友と呼べる存在がいた。
気立てのよいとても愛らしい女子生徒だった。
だが、もうこの学校にはいない。
この藤宮武のせいで自殺した。
何度も何度も凌辱の限りを尽くされて子供が出来た。
そして流産させられた。
子供が二度と産めない体にされた事で絶望した。
その後写真をネタに仲間内でさらなる凌辱、輪姦されたのだ。
女生徒はその人生を耐えられずに死を選んだ。
藤宮家はこのスキャンダルを必死に隠そうとしたが、婚約者である麗華がそれを知ってしまった。
無二の親友をこのような目に遭わせたとして麗華は烈火の如く怒り狂った。
当然婚約は白紙に戻され藤宮家への援助は打ち切られた。
藤宮武は当の麗華がそのことを知ってるとは露知らず必死になって粉をかけている。
とうとう過剰に接し始めた事で氷結の女王は声を荒げる。
「触れるな! 外道! 渡辺久美子様の事を私は知っているのです! だからこその婚約解消です! 貴方は一之瀬家に相応しくありません!」
藤宮武の顔が引き攣る。
麗華の修学旅行は初日からケチがついた。
一方で天川優は現状に頭を抱えていた。
(どうすりゃここまで強大な魔界化が出来るんだよ!!)
地中海に浮かぶ無人島が丸々一つ魔界化していると教えられたのだ。
『こいつを本気で浄化するとなると中心部に誰かが乗り込んで始末を付けなきゃいけねぇ。ヨーロッパは魔術結社が古くから存在した。これを防ぐことは出来なかったのか!? えぇ! エリカ!』
『・・・ギルドのSクラスも結社の腕利きも誰一人帰ってこなかったわ。魔界化を島一つに留める事が精一杯だったのよ。分かって、スグル。』
『・・・クソッタレが!!』
近くにある椅子を思いっ切り蹴り飛ばす。
現状は優が想定していたモノより最悪な状況だった。




