傘(2)
初恋の彼女は成績優秀で、スポーツ万能・容姿端麗と3拍子そろった優等生だ。
スポーツ馬鹿だった俺が、普通ならまず相手にされない高嶺の花だろう。しかし彼女は嫌みのない性格で、誰とでも気さくに話しが出来るコだった。
2年間のうちで何度か席が近くなる事があり、その度に惹かれていった。修学旅行で同じ班になれた時は、思わず心の中でガッツポーズをした位だ。
さぞかしモテるだろうと思いきや、意外にも浮いた噂は聞いた事がなかった。
……というか小学校は別だったので知らなかったのだ。強力なライバルがいる事を。
あれは3年生の時。1学期中間テスト前だ。
部活動はなく、ほとんどの生徒は授業が終わるとすぐ帰っていった。
しかし俺は日直で、6限目の授業で使った資料を運ぶ手伝いをしていた。力仕事だったし、相方の女子は先に帰ってもらった。
ただ黙々と片付けを手伝う俺ではない。先生と軽口の応酬をしていたら更に遅くなった。
(急に曇ってきたな……)
廊下を急いで歩きながら窓の外を見る。いつの間にか黒い雲が広がり、今にも降りそうだ。
自転車通学なので雨は面倒だった。家に着くまでもってくれ……という願いも空しく、ポツポツと降り始めた。しかも、あっという間に本降りだ。
(あーあ、カッパかぁ)
自転車で傘を使うのは禁止されていた。
しかしカバンの中には折り畳み傘が入っていた。自分で使う訳じゃない。
当時変な憧れがあった。それは急な雨で困っている人に傘を差し出し、自分は悠然と帰るという……。
テレビかマンガで見たのか忘れたけど、それがカッコイイと思ったのだ。
困っている人というのは、主に彼女なのだが。
鼻歌交じりに1階の下駄箱へ向かう。
しかしそこに到着する寸前に思わず息を飲んだ。
(あ、あれは)
なんと、玄関先に彼女がいるではないか! 空を見上げている。
急な雨に傘がなく、佇んでいるようだ。
その横顔はとても綺麗だ……と思った。
どうして彼女が今まで学校にいたのか分らない。
だがチャンスなのに足が全く動かなかった。
『傘、使いなよ』
『俺は大丈夫』
想像上ではスマートに決めているはずだけど口の中はカラカラだ。
(よしっ、ここで行かなきゃ男がすたるぜ!)
ようやく決心がついた。傘を握り締め、一歩を踏み出そうとした時だ。
突然彼女は俺がいる反対方向の渡り廊下を向いた。
咄嗟に下駄箱の陰へ隠れる。
『お待たせ、美紀ちゃん』
やってきたのは、同じクラスで野球部の辻村だ。バンドを組んでいたりするが、どちらかといえば……正直地味な感じだ。しかも後からもう一人、同じクラスの鳴海という男子も来た。辻村と同じバンド仲間で、彼はかなりモテた。
その時は知らなかったが、3人は家が近所で幼馴染みだったそうだ。
どっちにしても、ショックだった。
『二人共テストが終わったら集まれるって』
『早速オリジナル曲の練習ができるね』
どうもバンドの話らしい。




