53 卒業(1)
卒業式は静かな緊張の中、予定通りに進行した。在校生の祝辞と卒業生の答辞はその緊張の中でも感動的だった。
教室に戻り卒業証書を受け取ると、いよいよ卒業する実感が湧いてくる。
「吉山・大賀の黄金凸凹コンビが見られなくなって、残念です~」
「変な名前つけないで……」
中庭ではバスケ部の後輩達が花束を贈ってくれた。
「漫才の名前みたい」
隣で凹の大賀さんが大笑いしている。
春休みにバスケ見学に行く約束をした後、大賀さんは笑顔のまま声を潜めた。
「『恋せよ乙女』だよ」
「う、うん。頑張る」
私の返事に大賀さんは少し目を伏せて考えた後、顔をあげハッキリと言った。
「恋はそんなに構えたり、考えたりしなくてもいいと思う」
「そっか」
「だから、見えにくくなっているのかも知れないね」
大賀さんと別れ、お母さん達と合流してからもその言葉の意味を考えていた。
(理屈じゃないって事だよね……)
後半の意味は分からない。
しばらくしてカズ君とレイ君がやって来た。
意外にも二人の制服にはボタンが全部残っていた。タカ兄ちゃんは袖口のボタンまで無かったのに。
元メンバーの岡田君と坂井君も見送ってくれて、3人揃って学校を出る。短くても色々あった中学校生活はこれで終わった。
一旦家に戻ってからレイ君の家に向かう。卒業祝いのお食事会と新しいドラムのお披露目をするためだ。
カズ君を迎えに行くと電話中だった。
「野球部の奴なんだけど……ゴメンね、先に行っててくれる?」
受話器を押さえカズ君がそう言うので、一人でレイ君の家に向かった。
「新しいドラムはどう?」
「いいね」
レイ君は嬉しそうだ。
ドラムについてしばらく話しを聞いていたが、一息ついたところでレイ君が何か包みを持ってきた。
「例のだけど」
「ありがとう」
それはミルク味のソフトキャンディー。ホワイトでーにはいつもそれを希望していた。
「他の人はもっといいヤツだよ?」
「いいの。これが好きなんだから」
後で頂くね、と付け加えてカバンにしまう。
「そういえば、ボタンは誰にもあげなかったの?」
レイ君のボタンを欲しがる人は大勢いただろう。
「数が少ないから不公平だろ? だから断った」
「やっぱり多かったんだ」
第二ボタンなんて相当な倍率だ。
「どんなに大勢いたって、俺自身があげたいと思う人じゃなければ意味ないよ」
レイ君は静かに言った。口元には笑みを浮かべているが、どこか寂しそうだ。
カズ君が到着したので、早速ドラムを見せてもらった。ピアノと同じ漆黒のドラムセットは、以前のものより圧倒的な存在感があった。
「パーツが増えてる?」
「前のはごく基本的なセットだったからね」
実際に叩いてもらうと、迫力が全然違う。
「これからも楽しみだね」
「ああ。高校に入ったら、すぐに声をかけよう」
レイ君の言葉にカズ君も大きく頷いた。
岡田君と坂井君も新しいメンバーが決まり、すでに練習を始めたそうだ。
このあとご馳走を頂きながら色々な話に花が咲いた。
次話『54 卒業(2)』で、中学生編は終了します。




