54 卒業(2)
「お邪魔しました」
私がご挨拶をしている間、レイ君とカズ君はコソコソと話しをしている。
「カズ君、帰ろ」
「ほら、姫がお待ちだぞ」
声を掛けると、レイ君は笑いながらカズ君の肩を押し出した。
「う、うん」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
カズ君は私に言われると慌てて顔を背けた。
「気をつけてね」
鳴海家3人のお見送りに、もう一度頭を下げる。
少し歩いてからふと振り返ると、レイ君が一人佇んでこちらを見ていた。しかし玄関での様子とは全く違い、沈んだ表情だった。
(レイ君?)
私が見ている事に気が付いたレイ君は微笑むと小さく手を挙げ、家に入ってしまった。
カズ君も様子が変だ。表情は硬く、とうとう一言も口を利かずに家の近所にある空き地へ着いてしまった。
「美紀ちゃん、ちょっといいかな」
ようやく口を開いたカズ君は立ち止まり、カバンから包みを取り出した。
「これ、ホワイトデー」
「ありがとう」
私の好きなソフトキャンディーだ。
それから続けてポケットから何か取り出す。
「これは……」
手のひらには学生服のボタンが乗っていた。
カズ君は真っ直ぐ私の目を見て、静かに切り出した。
「美紀ちゃんが好きだ。ずっと前からそう想ってた」
カズ君が、私を、好き?
心臓がドクン、と大きく波打つ。
高井君の時のようにすぐ言葉が出てこない。しかし全く違和感はなかった。
私は自然にカズ君の差し出したボタンを受け取っていた。
これは第二ボタンなのだろう。
カズ君の気持ち。ポケットに入れていたせいか、ほんのりと温かい。
私は右手でボタンを握りしめてから左手を重ね、胸にギュッと押し当てた。
私がボタンを受け取るのを見て、カズ君の表情が微かに明るくなる。
そして大賀さんの言った事がすべて理解出来た。
構えたり考えたりして、見えにくくなっている……カズ君の気持ちも、私の気持ちも。
「ありがとう……」
心からそう思った。しかしそれ以上言葉が続かない。
私は以前タカ兄ちゃんが好きだった。今はもうそんな気持ちはないけど、それなのにカズ君の気持ちを受け入れていいのだろうか? 好きになっていいのだろか?
理屈じゃないとはいえ、やはりその点は考えてしまう。
「今、返事がしにくいなら後でいいよ」
私の沈黙はカズ君の想いに困惑している、と思われたようだ。
「僕こそ、ありがとう」
そこでようやくカズ君はいつもの笑顔に戻った。優しい、優しい笑顔だ。
その笑顔を見て涙が零れる。この笑顔のそばに居たかった。
カズ君はオロオロしてたけど、私は「何でもない」と涙を指で押さえて笑う。そして「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」と頭を下げた。
「えっ?」
私の言葉を一瞬考えてから意味を飲み込んだカズ君は、顔を紅潮させてお辞儀する。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
まるで試合前の挨拶みたいで、頭を上げて目が合うと二人で思わず笑ってしまった。
マンガでは見た事がない始まり方だけど、私達らしいかな……と思った。




