49 高校入試
入試前日、カズ君に一本の新しめな鉛筆を渡した。
「お兄ちゃんが共通一次で使ったの。合格してるし、縁起が良いと思う」
「ありがとう。どんなお守りより効果がありそうだ」
カズ君はそう言いながら受け取ってくれた。
「私も同じ鉛筆を使うよ。一緒に合格しようね」
西校の志望倍率は2倍に近く、受験する誰でも気は抜けない。私もカズ君と一緒に西高へ行きたいのは同じだ。
「うん!」
カズ君は力強く頷いた。
入試当日は緊張しながら高校の門をくぐる。
カズ君はもちろんレイ君も心なしか硬い表情だ。
私が席について例の鉛筆を取り出すのを見たカズ君が微笑んだ。
いよいよ時間になり用紙が配られると、背筋を伸ばして気を引き締めた。
試験中はやけに時計が早く進む気がする。こんな時こそ落ち着いて……と自分に言い聞かながら問題を解く。
緊張の連続で、2日間の日程が終わった時には安心したのもあって力が抜けてしまった。
合格発表は一週間後。それまでは落ち着かないけど、バンドの練習はすぐに再開した。
予餞会で演奏する曲は文化祭で演奏したオリジナル曲と、新しいコピー曲を2曲。それにアンコールで1曲用意していた。
「BRAVEでアンコールがあったから今回もある」
レイ君は断言する。
「オリジナルはアレンジを加えて更に良くなったら、絶対に盛り上がる」
「それは楽しみね」
「任せとけ」
レイ君は上機嫌だ。出来上がりに相当自信があるのだろう。
この後の練習で、レイ君の自信が決して大袈裟ではない事が分かった。その分他のメンバーがまた泣く事になったが。
STIMULUSは、結局この予餞会でラストステージになってしまった。
「二人共どうするの?」
この先の事を下級生コンビに聞いた。
「もちろん続けますよ」
ギターの岡田君は即答だ。
「お二人が卒業しても絶対辞めません」
ベースの坂井君もキッパリ断言した。
「ボーカルの希望者は多そうけど、ドラムは大丈夫?」
「それは……」
そう言って下級生コンビはレイ君をチラッと見た。
「別に秘密じゃないし……俺が言う?」
「はい」
二人が頷くとレイ君は咳払いをし、私の方を向いた。
「このドラムは学校へ寄付する」
「えー!」
思わず大声で驚いてしまった。
「俺達の影響でバンドをやりたい奴が増えたんだ。でもネックはドラムだろ」
「そうだね」
やはり自分でドラムセットを持てる人はそういない。
「第二音楽室に置く事で学校と話しはついた」
「それなら、今までドラムをやりたくても出来なかった人たちが喜ぶよ」
もう卒業後の事だけど、ワクワクした。
「それにしてもドラムを寄付するなんて随分と思い切ったね。大事にしてたのに……」
私が感心していると、レイ君はニヤリと笑った。
「入学祝いに新しいのを買うから、古いのを引き取ってくれて都合がいい」
「なあんだ」
言葉上は酷く聞こえるけど、後に続く人の為を考えているのは本当だ。
微かに照れているレイ君の表情を見てそう思った。




