47 バレンタインデー(4)
丁度その頃CDが終わって部屋が静かになった。レイ君は雑誌も読まずに考え事をしていたので、放っておくのが一番と思い私も話しかけずに座っていた。
「これ以上遅くなると夕飯に差し支えるだろ」
しばらくするとレイ君は部屋の時計に目をやり呟いた。まもなく4時になる。
「そうね。残念だけど」
3人一緒に頂きたかったが仕方が無い。
「用意してくる」
レイ君が立ち上がる。
「手伝うよ」
「いい」
慌てて立ち上がろうとする私をレイ君は制した。
「でも……」
「客なんだから、大人しく待ってろって」
ぶっきらぼうに言い、台所へ行こうとドアノブに手をかける。しかし部屋を出ずに立ち止まり、少し考えるように間をおいた後、振り返った。
「その前に、いいかな」
「チョコ?」
私の答えに、レイ君はコクリと小さく頷く。その動作が何故か幼い頃のレイ君を思い出させ、それが可笑して口元がゆるんでしまった。
レイ君は怪訝そうな顔をしたけど、私はかまわずチョコを取り出す。
いつもはただ渡していたけど、今年は文化祭で感動したので一言添えようと思っていた。
渡す前に軽く深呼吸をしてレイ君と向き合う。
「いつも素敵な音楽を聴かせてくれて、ありがとう」と、チョコを差し出した。
『素敵?当然だろ』などと鼻で笑いながら答える、と思っていた。
しかしレイ君は僅かに目を見開き身動ぎもせずに私を見ている。
やがて目を細めギュッと口を結ぶと、深くうな垂れた。
「来年からは、さ」
それから小さくかすれた声で口を開いた。
「こんな義理に気をつかわないでいいよ」
確かにチョコは義理でも感謝の言葉は本心だ。
「気をつかってなんかじゃなく……」
「分かってる」
レイ君は強い口調で私の言葉を遮る。同時に上げた顔は苦しそうな表情だった。
「だから、もういいんだ」
「どうして?」
「家族ならともかく義理に余計な気持ちは不要だ。その分本命に……込めて欲しい」
そう言うと私の手からチョコを取り、部屋を出て行ってしまった。
(受け取るなら素直に受け取ればいいのに)
部屋に残った私はレイ君の態度にまた腹を立てていた。
しかし言葉が上手く頭に入らない。
たしかに本命が出来たら渡し辛いだろうけど、高校生になったとたんに本命が現れるかなんて分からないのに。
(何を考えてるのかなぁ)
今の言動はこれまでで一番戸惑ったかもしれない。
せっかくのケーキを今のレイ君と頂くのは少し気が重いな……と思ってしまった。だけどやっとカズ君が来たので、その心配はなくなる。
「遅くなってゴメンね」
「それはともかく、ちゃんと拭かないと」
カズ君は傘を持っていなかったようで、かなり濡れていた。
「でも頭は、ほら……」
坊主頭なのでバスタオルでゴシゴシと数回こすっただけで乾いてしまった。
「こういう時は便利だね」
「そうでしょ?」
バスタオルを肩にかけて、カズ君はニッコリ笑う。でも制服はそういう訳にもいかない。ジャージを持ち帰っていたので、それに着替えていた。




