45 バレンタインデー(2)
レイ君はチョコを渡しに来る人へ微笑みながらお礼を言っている。外面はいいからその辺はきちんとしているのだ。
そういえば教室にカズ君の姿がない。通学路では見かけたけど、どこにいるのだろうか。
心配していたらHRが始まる直前にやっと来た。普段のレイ君が登校する時間だ。
私の席の方が一列後ろなので表情はよく見えないけど動作は分かる。かなり急いで来たらしく、席に着いてからも静かに息を整えていた。
レイ君のようにチョコを貰っていたのだろうか。
しかし特に何も持っていないようだ。今年こそ沢山貰えそうだ、と思っていたのに。
でもその様子を想像しようとすると、何かモヤモヤとしたものが邪魔をする。
そんなに違和感があるのだろうか? 自分で考えておきながら変な話だ。
休み時間にもレイ君には沢山の女の子が取り巻いていた。
初めは笑ってられたけど取次ぎもかなり頼まれ、さすがにうんざりしてしまった。
「こんにちはー」
「いらっしゃい、美紀ちゃん。上がってちょうだい。レイはまだだけど」
土曜日なので午前中で授業が終わり、一度家に帰ってからレイ君の家に行った。おばあちゃんが今年もチョコレートケーキを用意してくれたのだ。
しかし行ってみたものの、誰も来ていなかった。
「お昼にも戻ってないの」
「そうなんですか」
お昼に帰れないほどチョコを貰っているのか。
「ゆっくりしていって。はなれに行ってる?」
「はい、そうします」
私は課題を片付けながら待つ事にした。
「あまり遅くなるようなら、美紀ちゃんの分は先に用意するね」
「ありがとうございます。楽しみ」
はなれにはクリスマスに買って貰ったというCDプレイヤーがある。
私は適当に一枚選び曲をかけた。
もうこれからはレコードやカセットじゃない、とレイ君は言っていた。確かにCDは色々便利だ。欲しけど音楽機器に無関心な両親は当分買ってくれないだろう。
床に座布団を敷き、テーブルへ勉強道具を広げた。
ソファーはあるけどテーブルが低くて字を書くには使いにくい。
部屋は良い感じに暖かく、静かに音楽が流れる。自分の部屋より居心地が良くて勉強は思った以上にはかどっていた。
CDが終わる時には丁度私も一区切り付いた。窓の外に目をやると、厚い雲から今にも雨が降り出しそうだ。
(なんだか今年も遅くなりそうだな)
レイ君は毎年の事だけど今年はカズ君も貰っているはずだ。
そのカズ君は休み時間も教室から姿を消し、渡される場面を直接見てはいない。何人もチョコを持った女子に所在をきかれたのに。
人気のあるのは良い事。それは分かるのだけど……やはりなんだかモヤモヤする。
私はCDを入れ替え、再び参考書をめくった。しかしさっきと違って全く集中出来ない。
最近は日付が変わっても机に向かっているので、眠たくなってしまったのだ。
さすがにここで寝るのはちょっと……と思うものの、次第に目を閉じている間隔が長くなっていった。




