44 バレンタインデー(1)
年末年始にタカ兄ちゃんが帰って来た。
夏休みはずっと練習や試合で家に帰るのはこの時期だけだ。
夏季大会はベスト4、秋季大会は準優勝していた。両大会ともベンチ入りしたというので忙しいのは無理もない。
丁度外出する時にタカ兄ちゃんと会い、変わらない笑顔で挨拶をしてくれた。
前のようにドキドキしないで楽しく会話が出来たけど、ちょっと複雑な気分だ。
3学期が始まるとすでに受験一色だ。
私も早速1月下旬に私立高校の試験を受けたが、滑り止めとはいえさすがに緊張する。数日後に合格を知ってとりあえず安心した。
本命の入試はあと1カ月後に迫っていた。
スーパーの一角にバレンタインコーナーが出来た。でも私はそのカラフルなチョコを横目に、いつもの板チョコを買うだけだ。
今年はレイ君からチョコを請求されてない。文化祭に出たので貰える数は増えるだろうから私のはどうでもいいのだろう。それはそれで腹立たしい。
「相変わらず本命チョコは無いの?」
学校の帰り道、大賀さんに聞かれた。
「好きな人がいないもん。しょうがないじゃない」
「中学の2年間を恋愛無しなんて……もったいない」
「マンガの読みすぎ。別に好きな人がいなくても中学生活は楽しいし」
私は思わず苦笑する。
「マンガじゃないよ『いのち短し恋せよ乙女』って言葉知らない?」
「知らな~い」
「塾の先生が教えてくれたの。古い歌なんだって」
「へぇ……」
「純粋に人を好きになれる乙女の時間はごく短い時間だ、と」
「…………」
「だから、今の内にどんどん恋をしなさいってさ」
少し赤くなりながらも、いつもの調子で大賀さんは解説する。聞く方も照れてしまう内容だけど、なるほどなと思った。
だからと言ってすぐに好きな人が出来たり沢山恋をしたりするかは分からないけど。
「それで大賀さんはどうなの?」
「ナイショ」
「え~ズルい!」
大賀さんは前と別の好きな人いるはずなのに、はぐらかされた。
2月14日。朝からレイ君へのチョコに話題は持ち切りだった。
登校中、数歩くごとに渡される。下駄箱にはすでに一杯詰まっていて、机の中にも同じく一杯。朝のHR前にも次々と渡す人が来る。
その様子を遠巻きに見ていた私達クラスメイトは、呆れつつも感心していた。
「俺だって、いつでも何個でもOKなんだけど」
高井君が私達に向って言っていた。
「無いよ」
誰かにあっさり言われ、派手にガックリしている。
「冷たいなぁ……あぁ、吉山さんは優しいから、実は用意してくれたりして?」
「え?! ご、ごめん。用意してない」
急に話しをふられ、私はつい謝ってしまった。
「図々しいぞ」
「お前が悪い」
色々な人言われ、高井君は「申し訳ありません」と、頭を下げた。もちろん今までのやりとりは、冗談のような軽いやり取りだ。
「陸上部の女子からはないの?」
「それは聞かないでおくれよ~」
その質問に高井君は肩を落とし、本気で落ち込んでいた。




