35 オリジナル曲(1)
バンドの曲が完成したとレイ君が言ったのは、修学旅行が終わってすぐだった。実は3曲も用意していて、実際に音出ししてみて一番良かった曲を文化祭で使うそうだ。
「すごいじゃない。3曲も作ったなんて」
「伊達に1年も待ってた訳じゃないよ」
私が感心しても、レイ君は当然だというような顔をしていた。
「それで、どんな曲なの?」
「それは聴いてからのお楽しみ」
「え~呼んでおいてそれはないんじゃない?!」
今日は日曜日だけど、カズ君は練習試合で来れないのだ。楽譜を見ても音楽の教科書ほどの知識しかない私には、どんな曲なのか全く分からなかった。
「いや今日は歌詞がどうかなって」
楽譜にはちゃんと歌詞が書き込んである。
「そうか作詞もレイ君だっけ」
「そう」
私が改めて歌詞を読もうとすると、さっきとは違いレイ君の顔は微妙に照れくさそうだ。
カバーするのは洋楽ばかりでも、さすがにオリジナルはほとんど日本語だった。
3曲とも全く異なる内容で、それぞれ悲劇的だったり韻を踏んでいたり……面白い。レイ君の意外な一面を見た気がする。
私なんかの意見でいいのかと思ったけど、気になる部分を指摘するとレイ君は素直に「これは?」と手を入れた。
「ちなみにどれがいい?」
「そうねぇ、カズ君が歌うなら……これかな」
それは旅の途中どんなに辛い事があっても決して諦めたりせず、希望を持って旅を続ける内容の詩だ。
「前向きで、カズ君らしい」
「まあ、そうだね。どっちかというとBRAVEっぽいけど」
「あ……」
そのイメージを変えたいといってバンド名まで変えたのに。
「いや、いいよ。たしかにカズ君らしい。曲調はマイナーだし。後半転調するけど」
それはますます聴いてみたい。
「この曲、ピアノで演奏出来ないの」
「えっ、ピアノで?」
「聴いてみないと分からないもん」
「…………」
レイ君は厳しい顔をしていたけど、ヤレヤレといった表情に変わった。
「ちょっと待ってて」
そう言ってレイ君は楽譜とにらめっこを始めた。
(わぁ……言ってみるもんだなぁ)
私はワクワクしながら待った。
しばらくするとレイ君は「こんな感じか」と、呟いた。
「聴けるの?」
「ああ。でも歌わないからな」
そう言って鍵盤に両手を置く。
「カズ君の声を想像する」
レイ君は大きく吸うと、鍵盤を叩きつけるように演奏を始めた。
荒々しくも物悲しい旋律の出だしから、途中細かく曲調が変わりつつ進行する。
終盤まで勢いは衰えず、転調して少し明るく転調されたサビを畳み掛けるように繰り返し深い余韻を残して曲は終わった。
私は最後の音が消えても言葉が出てこなくて、ただ感動していた。
そしてカズ君が歌う声と姿を、十分想像することが出来た。少し高い音程だったけど、声変わりをした後のカズ君でも十分出せる。むしろ綺麗な声が生かされるのではないか。
さすが『カズ君の声を前提に作る』と言い切っただけの事はある。




