36 オリジナル曲(2)
「この曲、カズ君に歌って欲しいな」
曲の感想はいくら言葉を並べても伝えきれないので、次に思った事を言った。
「本当に?」
レイ君は私の方へ向き直り、じっと私の目を見る。
私はそれに答えるように大きく頷いた。
「私にはカズ君が歌っているのが聴こえたよ」
「そうか……」
心なしかレイ君の声が弾んでいた。
その後メンバーが集まり選んだ結果、やはりこの曲に決まった。実は演奏するには結構難しくて、みんなちゃんと演奏出来るまでかなり苦労したという。
それとは対照的に、カズ君は数回の練習ですぐに歌えるようになった。
「難しいかもしれないけど、歌い易いんだ」
カズ君は複雑な事を言っていた。要するに既製服と仕立てた服との違いだろう。そして改めてカズ君の声で聴くとBRAVEっぽさは全く感じず、完全に新しいバンドだった。
部活が夏季大会へ向けての練習で忙しかったけど、その合間を縫ってバンドの練習も続けていた。
岡田君と坂井君の下級生コンビは練習中に私の姿があるとこっそり喜ぶ。
私が居るとレイ君の『指導』が和らぐらしい……そう聞いたけど、レイ君は容赦なく厳しい言葉でダメ出しをする。
「あれで優しいの?」
「そうかもね」
カズ君は曖昧に答えた。一体普段どんな練習をしているのだろう。
でもそのおかげで、オリジナル曲もぐんぐん上達していった。
「やあ、元気だった?」
高校でもバンド活動をしている元メンバーの安住さんが、久しぶりにレイ君の家に来てくれたのだ。
「文化祭行けなくてごめんなさい」
「大会の方が大事さ」
去年高校の文化祭に呼んでくれたのだけど、バスケで行けなかったのだ。
「今年は大丈夫ですから」
「了解。みんなの分のチケットも送るよ」
「やった~」
特に下級生コンビは喜んでいた。
「じゃあ聴かせてもらおうか」
安住さんはにこやかに本題に入ると、みんなにはサッと緊張が走った。
中でも安住さんと同じベースの坂井君が一番硬くなっている。
「美紀ちゃん以外に聴いてもらったことないから」
カズ君がそうフォローすると、安住さんは「気楽にやってよ」と笑った。
演奏が始まると安住さんは真剣な顔で聴いていた。
下級生コンビの緊張は1曲目が終わるまで続いたけど、致命的なミスはない。2、3曲と続けていくうちに通りの演奏になった。
「なかなかだ。緊張はご愛嬌ってことで」
安住さんは拍手をしながら言った。レイ君は少し不満そうだけど、安住さんは軽く制す。
「正直言って、高校生でもこのレベルに達してないバンドなんて山ほどあるよ。良く頑張ってるな」
経験者の評価というのは相当嬉しいのだろう。岡田君と坂井君は目を輝かせていた。
「その上で俺が思うに……」
安住さんは細かい演奏の感想を話し始めた。
レイ君より厳しい意見もあったけど、みんなはそれを素直に受け止めた。そしてそれを踏まえて繰り返し練習をすると、更に良い曲になった。
「みんなウチに欲しいよ」
安住さんはそう言ってくれた。




