19 レイ君からのお願い(2)
「どうしたの?」
「チョコの話、カズ君には内密に」
まだ声が聞こえるような距離じゃないのに、コソコソと言ってきた。
「フフッ、言わないよ」
「なに笑ってるんだよ」
「だってレイ君ともあろう方が、チョコを欲しがるなんて恥ずかしいじゃない?」
「そこまで言うな、外れてないけど。とにかくお願い」
レイ君は顔の前で手を合わせ、拝むような仕草をする。
「了解しました」
私達が近づくとカズ君も気が付いたようだ。
「おかえり」
「ただいま」
よく見るとこんなに寒いのに額に汗をかいている。
「よかった。レイ君に送ってもらったんだ」
「僕でもいないよりかマシだろ」
レイ君がマフラーを直しながら口を挟んだ。
「そんな事無いよ。寒いのにありがとう」
カズ君が軽く頭を下げると、レイ君は下を向いて「あぁ」と答えた。
「カズ君、汗拭かないと風邪引いちゃうよ」
「うん、分かった。でもこれを渡したかったんだ」
カズ君はポケットからカセットを取り出した。
カセットを渡すために、わざわざ外で待っていてくれたらしい。
「ありがとう」
私は両手で大事に受け取った。
「バンドの名前は聞いた?」
「うん、STIMULUSね」
「かっこいいでしょ? レイ君が考えたんだ。みんな大賛成だよ」
そう話していると隣から咳払いが聞こえた。
「もう帰るよ。じゃあ……」
そう言ってレイ君は踵を返す。
「送ってくれてありがとう! また明日」
レイ君は照れているのか、手を振りながらもこちらは振り返らずに帰っていった。
私とカズ君はレイ君の後ろ姿を黙って見送った。やがて見えなくなるとカズ君は小さくくしゃみをする。
「大丈夫? 本当に風邪引くよ。私たちも帰ろう」
「そうだね。今週末のテストに影響したら大変だ」
カズ君は鼻をすすりながら答えた。
「今だけ? くしゃみしたの」
「うん。ずっと体を動かしてたから今まで何ともなかったよ」
「そう。よかった」
迷信だと思いつつ、念のため確認してしまった。
テストは毎回大事だけど、特にカズ君は1回1回が気を抜くことはできない。夏休み前の面談で西校はかなり厳しいと言われていたのだ。
しかしそれからのカズ君は猛勉強をして、夏休み明けのテストでは順位を一気にあげた。その後も順調に成績は伸びていったが、それでもまだ合格圏内ではない。
夕食後、早速自分の部屋でテープを聴いた。
始めに入っていたのは、BRAVEでも一番初めに演奏したおなじみのあの曲だ。演奏する人が変わると雰囲気も随分変わる。まだぎこちなさもあり、ちょっと微笑ましい。
そしてカズ君のボーカルは、やはり良い。ボーカルに変わった時はあんなに自信が無さそうだったのに、全くそれを感じさせない。早く生で聴きたかった。
聴き終えるとふと目の前の卓上カレンダーに目が行く。
レイ君はこの後3週間近くもチョコレートを確保するお願いをして回るのだろうか?
その様子を想像すると、少し可笑しかった。




