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明日のうたが聴こえる  作者: 人見くぐい
第三章 中学生編
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19 レイ君からのお願い(2)

「どうしたの?」


「チョコの話、カズ君には内密に」


まだ声が聞こえるような距離じゃないのに、コソコソと言ってきた。


「フフッ、言わないよ」


「なに笑ってるんだよ」


「だってレイ君ともあろう方が、チョコを欲しがるなんて恥ずかしいじゃない?」


「そこまで言うな、外れてないけど。とにかくお願い」


レイ君は顔の前で手を合わせ、拝むような仕草をする。


「了解しました」




私達が近づくとカズ君も気が付いたようだ。


「おかえり」


「ただいま」


よく見るとこんなに寒いのに額に汗をかいている。


「よかった。レイ君に送ってもらったんだ」


「僕でもいないよりかマシだろ」


レイ君がマフラーを直しながら口を挟んだ。


「そんな事無いよ。寒いのにありがとう」


カズ君が軽く頭を下げると、レイ君は下を向いて「あぁ」と答えた。


「カズ君、汗拭かないと風邪引いちゃうよ」


「うん、分かった。でもこれを渡したかったんだ」


カズ君はポケットからカセットを取り出した。


カセットを渡すために、わざわざ外で待っていてくれたらしい。


「ありがとう」


私は両手で大事に受け取った。


「バンドの名前は聞いた?」


「うん、STIMULUSね」


「かっこいいでしょ? レイ君が考えたんだ。みんな大賛成だよ」


そう話していると隣から咳払いが聞こえた。


「もう帰るよ。じゃあ……」


そう言ってレイ君は踵を返す。


「送ってくれてありがとう! また明日」


レイ君は照れているのか、手を振りながらもこちらは振り返らずに帰っていった。


私とカズ君はレイ君の後ろ姿を黙って見送った。やがて見えなくなるとカズ君は小さくくしゃみをする。


「大丈夫? 本当に風邪引くよ。私たちも帰ろう」


「そうだね。今週末のテストに影響したら大変だ」


カズ君は鼻をすすりながら答えた。


「今だけ? くしゃみしたの」


「うん。ずっと体を動かしてたから今まで何ともなかったよ」


「そう。よかった」


迷信だと思いつつ、念のため確認してしまった。


テストは毎回大事だけど、特にカズ君は1回1回が気を抜くことはできない。夏休み前の面談で西校はかなり厳しいと言われていたのだ。


しかしそれからのカズ君は猛勉強をして、夏休み明けのテストでは順位を一気にあげた。その後も順調に成績は伸びていったが、それでもまだ合格圏内ではない。




夕食後、早速自分の部屋でテープを聴いた。


始めに入っていたのは、BRAVEでも一番初めに演奏したおなじみのあの曲だ。演奏する人が変わると雰囲気も随分変わる。まだぎこちなさもあり、ちょっと微笑ましい。


そしてカズ君のボーカルは、やはり良い。ボーカルに変わった時はあんなに自信が無さそうだったのに、全くそれを感じさせない。早く生で聴きたかった。


聴き終えるとふと目の前の卓上カレンダーに目が行く。


レイ君はこの後3週間近くもチョコレートを確保するお願いをして回るのだろうか?


その様子を想像すると、少し可笑しかった。

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