18 レイ君からのお願い(1)
レイ君は私の呆れた様子を全く気にせず1枚の紙を取り出した。それは未記入の楽譜で、レイ君が曲を作る時に使うものだろう。
その裏面にいくつもの単語が書かれ、そのうちの1つが丸で囲まれていた。
『STIMULUS』
「スティ……」
「スティミュラス。刺激とか興奮剤って意味」
「前とは雰囲気が違う」
その文字をじっと見つめ私は言った。
「全く違うバンドだよ」
「そうだったね」
イメージを変えるために名前も変えたのだ。分かってはいるけど違和感がある。
私の反応を予想していたのか、レイ君はその名前を選んだ理由を話し始めた。
「僕が初めてロックを聴いた時のように、僕らのバンドを聴いてそう感じて欲しいんだ」
「刺激や興奮を?」
「そう。それにロックを聴かない人が興味を持ったり、自分で演奏をしようと思ったりする刺激にもなってくれたら」
「それはいい事ね」
思った以上に思い入れがあり、真剣に考えたのだな……と少し見直した。
家に帰る時、久しぶりにレイ君に送ってもらった。去年BRAVEの活動が終わってしまう話を聞いた時以来だ。
あの時は風が冷たく自然と早足になっていた。そして今も同じく無言のまま早く歩いている。寒いし練習や勉強もあるから、さっさと用事を済ませて帰りたいのかな。
しばらくそんな感じで歩いていると、レイ君がポツリと呟いた。
「もう少しゆっくり歩いてくれない?」
「えっ? 早く帰りたいんだと思ってた」
「そういう訳じゃないけど」
私達は歩くスピードを落とした。早足のせいで身体が温まりつつあり、家を出た時よりも寒くはなかった。
「カズ君とは喋って帰る?」
「いつもと変わらないよ」
「じゃあよく喋るんだ」
「何それ」
「二人ともお喋りだって事」
「レイ君だってカズ君とはよく喋って、私が入るスキがないよ」
「結局カズ君がお喋りなのか?」
「そうかも」
お互いに顔を見合わせ、笑ってしまった。カズ君は今頃くしゃみをしているだろう。
それからはカズ君と同じくらい話しながら歩いた。要するに三人ともお喋りなのかも知れない。
「チョコはいつものでお願いしたいんだけど」
私の家に近づいた頃、レイ君はまたチョコの話を持ち出した。
「うん、あの板チョコね。そんなに好きなの?」
私がそう聞くとすぐには答えず、レイ君は夜空の遠い星を見るかのように視線を上げる。
そして小さな声で「そうだね」と言った。
「へぇ、もっといいチョコ貰ってるのに」
「言ったじゃないか。身近で馴染みがあるのが一番だって」
「そうね。確かそんな事言ってたっけ」
「あぁ。ずっと……好き、なんだ」
レイ君の息が大きく白く立ち上がる。
「そう思う人がいるから何十年も売れてるんだもんね」
私は納得した。
更に家の近くまで来ると道路に人影が見えた。
「カズ君だ……」
外灯に照らされてカズ君が素振りをしているのがぼんやりと見える。
「ちょっと待って」
レイ君が呼び止めた。




